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古海海南の事情 その2

 その日、私は藍曽以久多から目が離せなかった。別に、変な意味ではなく。

 何故だろう。やはり、3限目のアレは私の見間違えだったのだろうか。

 彼のあの、長めの前髪の下には……と、考え、また彼の前髪が何かの拍子に揺れるのを期待して見つめてしまう。

 しかし、どんなに穴が開くほど見つめても、彼の前髪が再び揺れることは無い。もう、彼の顔なんて見飽きてしまった。大体、見たくもない男の顔を見つめて何が楽しい。いつもヘラヘラ笑って女子と群れやがって。


 ええい、もどかしい!と、私は毒を吐きながら、心の中で叫んだ。

 あの、前髪の下を確認するだけで良いのだ。もし何も無かったら、何も無かった、何かあったら、何かあったで良いじゃないか!

 私はただ、自分の視力を信用したいだけだ。決して、単なる好奇心などではない。 

 ところで、みなさんはご存知でしょうか。私のように両目とも1.0以上の視力を持つ14歳の子供の割合は、全体の約三分の一だということを。しかも、その数は年々減少しているのです。多くの原因はスマートフォンなどの電子機器の普及によってでしょう。

 この電子機器を一切使っていない、私の視力が衰えたというならば、10年後の日本の14歳の視力は著しく低下することになってしまう。

 これは由々しき社会問題。なんて忌々しい。

 よって、私の視力の検査を要求する。


 兎に角、彼の前髪が揺れなないのなら、自分が揺らしに行けば良いのではないか?という考えを思いついた私は、昼休みに早速彼の元へと向かう。彼から借りたノートを手にして。(因みに、字が汚いとか言っておきながら、彼の字は私よりも綺麗であった)


 よし。もし、私の視力に問題があった場合、全力で眼科に行こう。


「あの、藍曽くん」

「ん?あっ、古海ふるみさん?どうしたの」


 友人(8割女子)らに囲まれて、楽しそうにお喋りをしていた藍曽以久多は、私が彼のお喋りに水を差したにも関わらず、1ミクロンも嫌な顔を見せず微笑んだ。



「これっ、有難う。使わせてもらいました」


 なるべく、声が裏返らないように気をつけながら、彼から借りたノートを差し出す。

 あのね、リア充パリピ軍団のなかに根暗ボッチが突き進んでいくのって、ものすごく勇気がいるのよ?あなたそれ分かっていらっしゃる?

 そうね、例えるなら、「ナシヨリノナシ」とか「マジ卍」とか理解できない宇宙語をしゃべる宇宙人のなかにヒューマンビートボックスしながら入っていく感じかしら。


「あぁ、役に立って良かったよ。字は読めた?結構汚かったでしょう」

 

 と、彼が私に顔を近づけてはにかんだ。

 今だ!


私は右手で隠し持っていた下敷きで彼の顔を思いっきり仰いだ。

下敷きは一陣の風を作り、彼と、彼の友人らの間を吹き抜ける。

彼の隣に立って訝しげに私を見ていた女子のスカートがめくれ上り(ごめんね)、そして、彼の前髪も、めくれ上がった。


 私は見た、正確には、目があったのだ。彼の額にあるもう一つの目と。

 血走っていた。いや、血走りをはるかに超えている。白い部分が無い。

 もはや眼球から血が溢れ出したように赤くギラギラしており、ギョロギョロと動いていた。私は思わず、「ヒッ!」と、声を上げてしまう。


「ちょっと、急に何?!」

 

 先ほど、私の下敷きウィンド(ラッキースケベ)により、スカートがめくれ上がった女子がものすごく不愉快そうに此方を睨んでくる。そりゃあ、よく分からん女子にいきなりスカートをめくられたら不愉快ですよね。


「ごめんなさい。暑いなーと、思いまして」


 嗚呼、我ながら苦しい言い訳。チラリと藍曽以久多を見ると、彼も、額にある目を隠すように前髪を整えながら、私を訝しげに見ていて、恥ずかしさに頰が熱くなった。

 私、何やってるんだろう。って、それより、彼のもう一つの目だ、と、私は表情を固くする。

 私が先ほど見た事実によると、彼には3つ目があることになる。

 しかし、スカートがめくれ上がった女子も、その周りにいる友人ら(8割女子)も、彼の額にあるもう一つの目に何ら反応していない。もしかしたら、私にしか見えていないのではないか?と、考えたが、やはりそのような非現実的なことはない、と思う。

 ならば、彼はそういう障害を持っているのではないか?

 それなら合点がいく。生まれつき、目が3つあるから、彼の友人らは彼の額にある目に反応しない。むしろ、触れないようにしていることも十分あり得るだろう。


 私は、そこまで考えた時、再び頰が熱くなるのを感じた。自分のただの視力の検査という名の好奇心で、彼を傷つけてしまった。

 もしかしたら、彼はそのことをあまり気にしていないのかもしれない。しかし、彼の額を見たいがだけに、下敷きで仰ぐなんてサイテーなことをされたら…しかも、「ヒッ!」と変な声まで上げられてしまったら…いくら、いつもニコニコしている彼でも、多少は気にすることだろう。


「あ、ごめんなさい、本当にごめんなさい」


 半泣きになりながらペコペコと謝り、素早く彼に背を向けて、走り出す。

 ああ、怖い怖い。何が怖いって、宇宙人から集団リンチにあうことです。


「へ? 何あの子」


 電光石火のスピードで走り去る私の背後から、ラッキースケベ女子の声が聞こえたような気がした。

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