君は幼く、世界を知らない 9
そこに現れたのはカルラだった。
なぜ、現れたのか、どうして杖なのか、今のは一体何なのか。
ユリアの頭の中はそれでいっぱいだった。
『貴様生きていたのか……!!』
「………。」
黒い男の暁の瞳を鋭くさせ、カルラを睨みつけた。
しかし、カルラは無反応なくそれを見つめている。
しびれを切らしたのは全く会話に入ってこなかった少年のほうだ。
『誰だか知らないけど僕の楽しみを奪うやつは許さない。』
頬に雫が垂れるのを感じた。
角は長く尖がり、先程まで人の形をしていたものは原型などとどめていなかった、それはつまり”怪物”だ。
顔が青ざめるのを感じた、”それ”が襲って来られたら自分はひとたまりもない。
だが、その危機的状況でもなおカルラは無反応だ。
そんなカルラに”少年だった”者は咆哮をあげ、襲いかかってきた。
かすかに後ろを見たカルラは震え、青ざめるユリアを突き飛ばした。
「きゃっ!」
尻餅をつくことになったが結果的には無傷だ
避けることが間に合わなかったカルラは攻撃を受け、突き飛ばされしまった。
かろうじて直撃は回避したようだが、体には突き飛ばされた体には無数の土埃がついていた。
「カルラ様!」
「危ないっ!」
近づこうとするユリアにカルラの言葉がかかる。
その声はいつもの物静かな声ではなく、叫びにも似た声色だった。
それもその筈、先程まで傍観していた暁の瞳の男がユリアの前にたっていたのだ。
「え?」
ユリアは目を丸くさせ――――その瞬間、視界が真っ赤に染まった。
―――視界が完全に真っ暗になる時、誰かが名前を呼んだ気がした。