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殺戮の天使  作者: 庭庭
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夜の天使

昔書いたものに少し手を加えたものです。同名のフリーゲームがありますが、全く関係ありません。


今手元にある物を一通り載せる予定ですが、ストックが切れた後は更新頻度は不明です。

しかし完結させる予定ではあるので、失踪はしないと思います。

ストックは2話程度ずつ、週一ほどで載せていこうと思います。切れた後は1話ずつ、できれば週一を目標に頑張ります。

私が堕ちた理由、私が罪に問われた理由。

私がここにいる理由、私がこうしてる理由。

数多くある私への理由をすべて綺麗に弁解するなら、どれほどの時間を要するのだろう。だけど私は半分諦めてしまったから、もう見苦しく弁解することもないだろう。

早いうちに言っておこう。私は人の世に堕とされた惨めで哀れな天使だ。1000年の間、老いることも死ぬこともなく、何一つ変わらない体で人の世を生きている。

手に持った青林檎を一つ齧り、私は天を貫く高いビルから夜の世界を見下ろしていた。大昔、太古の昔。人は天に続く高い高い塔を建てようとしたという。神はそれを見て塔を壊し、人の言葉をバラバラにしてしまったという。ただ、それは太古の話だ。今は神の力にも屈することなく人間は天に続くほど高い建物を簡単に建設してしまう。

「哀れなり。」

吐き捨てるように呟いて、私はビルの上から人のいない路地裏に飛び降りた。雲とすれ違い、星と遠ざかり、どんどん私は地上に落ちていく。だけど怖いわけではない。なぜか知らないけど、私は人の姿でも重力を操れる程度の力だけは残っていた。天使が羽をもがれればただの羽根のない天使になるという。そのせいかな。自分の不思議な能力を簡単に使って、私は羽が地に舞い落ちるように着地する。

「うわっ!?」

側から声が聞こえて、どうやら降りる光景を見られたらしい。だけど特に気にすることはない。私のことを誰かに話したって、その人は頭がおかしいと思われるだけだから。

横目にその悲鳴をあげた男性を見て、私は背を向けてやや足取り軽く路地裏を後にする。

夜の街は不思議だ。まるで祭日であるかのように繁華街は騒ぎ出す。昼間は多くが仕事や学校で疲れ切っているはずなのに、人間とは不思議で面白い。

そして今の世は実に不便だ。私には家というものがないから、木の上やそこら辺で寝泊まりしている。昔はそんなことをしてても誰にも気にされなかったが、今はまず木がない。街の外に出ても道路や開拓が進んでいて、どこにも行き場がない。めんどくさいから公園の木の上に寝ていると、警察が来る。

神経質に進化を遂げた人間を見ると、あまりにも滑稽でうざったくて、大笑いしそうだ。奇想天外な行動ばかりでなるほど、神が人間を守りたくなるわけだ。

ところで、私の認識はどうなっているのだろう。天使か人間か、はたまた堕天使か。だけどまあ、この地でこうして生きているのなら、それなりにご加護は頂いてるのだろう。


二口目の林檎を齧り、私は繁華街を横切った。頭に響くような騒がしいこの通りを抜ける理由は、酔いつぶれた人や、客引きをする人を見て楽しむためだ。

道の真ん中で顔を赤くして酔っ払ったおじさんが、フラフラとした足取りで私に近づいてくる。そして顔を近づけ、酒臭い吐息を飲み込むことを私に強要し、面白いほど予想通りに絡んできた。

「お嬢ちゃん、おじさんと遊ばない?」

やっぱり、今も昔も酒が絡むと人は同じだ。思わずクスリと笑ってしまい、私はおじさんをかるくつついた。

「おじさん。私と遊んでも後悔するだけだ。」

「若い子と遊んで後悔なんてしないよ。それにお嬢ちゃんは随分とべっぴんさんじゃないか。さあどこに行こうか。」

べっぴんさんと言われて悪い気はしないが、私は軽い女じゃない。今度は少し強めに突き飛ばして、もうこういった仕事はしなくていいのだけど、私の中の少しの優しさが彼に忠告した。

「おじさん。やめておいた方いい。悪いことしたら天国に行けないって、知ってるよね?」

「ああ?天国なんてもんないよ。なかなか面白いこと言うねえ。」

そういって私の肩に手を添え、おじさんはやたらくっついてくる。

酒臭さと汗臭さのムッとした匂いが鼻を刺すように刺激する。何度か経験があるからだいぶ慣れてはいるし、酔っ払ってまともに考えられない人に罪を罪をと、問うことは少し難しい。

だけどおじさんがサラッと言ったことに私は顔をしかめた。

「神様なんていねえしな。いたらこんな安月給じゃねえし、それに俺は宗教じみたものは嫌いでよ。」

この身になりながらも私は主人である神に忠誠がある。その神、主人を冒涜したものは少々許しがたい。

「おじさん。神はね、いるんだ。宗教じみたものは嫌いだろうがおじさんが無知だろうが、神の冒涜は許しがたいね。サヨナラ。」

「お?おい。お嬢ちゃん。」

さっさとその場を背にして私は歩いた。おじさんは酔っ払ってるせいで私のような小娘一人捕まえ損ねたところで悔しがる様子もなにもないようだ。

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