幼年期 2
『あれから半年、あやつはもう……』
『今しばらく、今しばらくの猶予を』
『今孕ませておる。孕みし後にあやつの次が生まれし時、動けぬなれば……』
『何とか、それまでに』
昼間に目を開けるのは久しぶりだな。
周囲に誰も居ない時は開けてみたりしていたが、人が居る時に開けるのは初めてか。
視線が合うと感情がプラスに傾き、手をそろりと動かせば更にプラスに傾く。
ああ、オレが意地汚いから心配されてたのか?
とりあえず寝返りを打ってみると、パタパタと報告に走る様子。
やれやれ、もうあの赤い飲み物は終わりになるのか。
『皇子が目覚めましてござりまする』
『ふうっ、やっと目覚めたか』
『ははっ』
『なれどの、余りに遅い目覚めじゃ。事によると……』
『それは我らが支えますれば』
『ふむ、まあ、磨いてみるが良かろう』
『ははっ』
起き上がると身体は少年の様相。
本当は飛んだり跳ねたり出来るんだけど、そろりそろりと床に降りようとする。
周囲の奴らは手を出そうとしては思い留まり、ひたすら凝視されているような。
そのまま床を踏みしめ、そろりそろりと歩く。
そこらを1周してまたベッドに戻り、寝た振りの継続……てか、夜がハードだからマジ眠いんだよな。
最近、魔物っぽい生物を何とか狩ろうと思って調べてんだ。
『皇子、初歩の儀、終わりましてござりまする』
『本来なら3日でこなす事じゃがの』
『これから、これからでこざりまする』
『あれの次が産まれ、抜かれたら交代じゃ』
『ははっ……致し方ありませぬな』
どうやら人間って訳じゃないらしい。
いくら何でも半年で少年の風体ってあり得ないし、それで歩くってのも更にあり得ない。
後、やはりあの赤い飲み物は無くなり、いきなり肉と野菜って普通の食事になっちまった。
離乳食も無しにいきなりとかさ、絶対人間じゃ無いって。
確かにもう歯は生え揃っているし、肉とか簡単に食い千切れる。
『皇子、初食の儀、終わりましてござりまする』
『ほお、肉を食いおったか』
『ははっ、力強く食い千切っていた模様』
『それとて10日もあればやれる事じゃがの』
『少しずつ、少しずつなれば』
『普通ならば既に、剣の稽古ぐらいはやれねばの』
昼はのんびり夜はハードに、オレの修練は続いていた。
特に深夜のハードスケジュールのせいか、昼間は昼寝主体ののんびりしたもの。
教わるままに全てを理解して頭の中に入れており、既に会話と読み書きはマスターしている。
だけどそれは表には見せない。
かつての出る杭は死刑って教訓が、オレに目立つ行為をためらわせたのである。
ある時、体内にもやもやした物を感じるかと聞かれた。
だけどもうそんな曖昧な感覚じゃなく、確固とした存在としての魔力を感じている。
それどころかオリジナル魔法の開発が、今の楽しみになっているぐらいだし。
だから正直に……
「もやもや? そんなの感じないよ」
ならば先に体力作りと言われ、最初は宮廷内の散歩からと……
既に探査魔法で知っているんだけど、直視はいささか様相が異なる。
ふむ、このすり合わせをやれば探査がもっと進化するか。
場面場面を探査の結果とすり合わせ、段々と詳細な情報になっていく。
それは良いのだが、体力作りの一環の最初のステップの散歩だよな。
オレはそいつを魔法の研鑽に用いていたんだけど、宰相達にはオレが、体力が無いから休み休み歩いていると思えたらしい。
なので次のステップに進む事もなく、オレは充分に探査魔法を磨く事が出来た。
その結果、探査は色々と進化して分岐し、地中探査魔法の【地探】や、生命探知魔法の【命探】など。
後は設置した地点に人が近付くと警報として知覚する【警報】などである。
そして遂に【視探】の確立。
もう目を瞑って歩いても、直視と変わらぬ情報が得られる。
しかもこれは周囲の明暗に関わらない。
だから深夜のトレーニングにこれは大いに寄与した。
そんなある日の事、遂に魔物を倒してみようと思った。
風魔法の概念に、ハンググライダーのイメージを足して、完成した魔法が【飛翔】になる。
もっとも体感したのは高校の修学旅行の時でさ、すぐに突風が吹いて転落したんだけどさ。
まあそれはともかく、転落のイメージなんて含ませず、最初のふわりと浮かんだイメージだけを使ったのさ。
そうしたら実際に身体が浮き、後は操縦だけ習熟すれば良かったのさ。
生命探査で生物を探査し、得られた存在を詳細に確認する。
人以外の生物の確認……後は……
【風刃】
武器が無いから魔法でだけど、風系のイメージで開発した。
透明な見えない風……つまり空気の刃って概念で、魔物の首を切断したんだ。
やけに簡単に斬れたのにびっくりしたけどさ。
そうしたら頭に鈴の音が響くんだ。
あれ、これってレベルアップ?
じゃあさ、こんなのもやれたりするの?
【ステータスオープン】
レベル 2
HP 100/100
MP 40/40
あれ、これがステータス?
STRとか無いの?
スキルは?
魔法は?
それにしても、MPが少なくないか。
まあ、レベル2だからかも知れないけど。
まあいいや、もっともっと倒してみるか。
イメージのままに風の切断魔法。
【風刃】でズバッと魔物の首が落ち、頭の中に鈴の音が……
レベル3になったけど、HP150 MP60だ。
どうにも地味だね。
その日から夜のハントも加わり、昼間はますます眠くなっていった。
朝、ベッドの中で軽く朝食を採り、そのまま昼過ぎまで眠り、目覚めてベッドの中で食事。
そしてまたしばらく眠って後に少し学び、夕食を食べて眠る日々。
だからもう散歩すら無くなった。
『あやつはまた寝たきりになったらしいの』
『急な運動で疲れたのでござりましょう』
『どうにも虚弱よの』
『またしばらく後には』
『実は側室が孕んでの』
『そ、それは、めでたき……』
『男児が産まれるようなら、そして抜かれるようなら』
『うっ……』
『交代させる』
『そ、それは……』
どうにも拙いですね。