回想 2
本日3回目です。
「おいっ」
呼ばれてハッと気付く。
振り向こうとして、周囲の状況に気付く。
これは、かつての……
例え死ぬ前の夢でも、振り返りたくはなかった。
そうしてそのまま隣の女性が追い抜いていく。
婦警さんが追い抜いていく。
ああ、そもそもこれが始まりだったんだよな。
周囲に気を付けながら振り返ると、そこには誰も居ない。
あの時、オレは誰に呼ばれたんだろう。
それにしても、これが走馬灯なのか?
まるで昔に戻ったみたいな……頬をつねる……イデデデ……嘘。
オレは昔に戻っていた。
かつてと同じ事を繰り返す周囲に対し、記憶のままに危機を避けていく。
ふと気付いたんだけど、身体能力が死んだ時のままになっている。
つまり、死刑が執行された当初の身体能力のまま戻ったようなのだ。
ならこれからもっと鍛えれば……
小学生ではあり得ない程の力と学識になりはしたが、それを表に見せる事はなかった。
そして苛めに対しても最初が肝心と、殴るこぶしを受け止めて、少年院で培った殺気で応酬。
青くなったそいつはそれからオレに手を出す事もなくなり、身体トレーニングと学識の取得の日々は続いた。
テストの点も中間になるように、目立った活動はしないように、あくまでも地味に地味に……
そうして何とか中学になる。
それからもかつての危機を避けて避けて避けて……
地味に目立たず成績は中位に留めた。
中学で苛めをしようとした奴に対し、軽い殺気で留まったのは幸いだろう。
かつて少年院の猛者連中から受けた殺気……あの経験が役に立つとは皮肉なものだ。
クラスでは地味で目立たない生徒の立ち位置を保持し、トレーニングと図書館通いは継続した。
前回でもやっていたせいか、語学に対する学識も深くなっていて、全教科で中位をキープした。
無難な学生生活は終わり、卒業の後でも呼び出しを食らう事はなかった。
そして未知なる体験をする事になる。
高校生活である。
平均的な成績のせいで公立高校に留まったが、そこでも同じように目立たないように過ごした。
テストは全て解けたが、解答は半分だけ記入し、後は誤答を記入した。
それでやれると思っていたんだけど、ある時、職員室に呼ばれたんだ。
「お前、これはどういう事だ」
見ればオレの答案が机の上に置かれていて、全て50点になっていた。
ああ、失敗したな……まさに油断であった。
今まで、記憶のままに危機を脱し、未知なる体験に突入し、このままいけると思ったんだ。
オレは偶然を主張したけど、教師はそれを信じなかった。
わざと手抜きをしたと言われ、不真面目な態度と言われ、反省文を書けと言われても……
テストの点が赤点ならまだ分かるのに、全部が同じ点ってだけで不真面目ってさ……
やはりまたしても世界が攻撃している気がした。
次に同じ事をやったら容赦しないと言われ、しかも次は全ての教科で80点以上を取れってさ。
なんでオレだけなんだ。
どうして他の奴らは良いんだよ。
赤点の奴らも居たってのに、なんで50点のオレだけが言われるんだ。
それでも期末は何とかバラけさせ、82点から88点の間で解答した。
なのに、また言われるんだ。
「お前な、本気でやれと言ったろ」
不公平もここに極まれり。
学年でも2桁の上位のオレに対し、赤点連中と一緒に補習ってどういう意味だよ。
小テストで満点にしてやったってのに、やっぱり手抜きかって言われる始末。
結局、夏休みも補習だと言われ、赤点連中と共に補習の日々だった。
理解している内容を何度も繰り返し学ばされ、オレは苦痛で堪らなかった。
そして補習最後のテスト、他の奴らは平均30点以上、なのにオレだけ90点って酷いだろ。
仕方が無いから全て本気で解き、100点満点でクリアした。
夏休みの後半は日々のトレーニングと図書館通いで終わらせた。
遊びなど全くする気にならず、ひたすら自分を磨く事に費やしたんだ。
新学期になって、中間テストでは思いっきり点をばらけさせたんだ。
他の奴らみたいにさ、なのに……
「また手抜きかよ、この野郎」
停学ってどういう……くそぅ……
やっぱり世界はオレが嫌いなんだな。
だからオレだけ苛められるんだろう。
ならもういいや、オレは自分をひたすら磨こう。
クラスで孤立しても、教師に嫌われても、オレはひたすらトレーニングと学識取得の日々となる。
どのみち赤点じゃなければ問題無いと、毎回のテストは40点から60点で散らした。
毎回、停学になりはしたものの、もうそんな事はどうでも良かった。
でもさ、教師は最後にこう言ったんだ。
「お前なんか受け入れてくれる大学があると思うなよ」
内申は滅茶苦茶にしたらしい。
すっかり極悪生徒に仕立て上げられており、入試の点は良いのに面接で落とされた。
受けた大学全てがそれで、就職も全滅になるらしかった。
「ふん、ざまあみろ」
それから先はもう仕方が無いよね。
折角の2回目の人生だったけどさ、もうそんなのどうでも良かったんだ。
教師の胸倉掴んでさ、そのまま投げ飛ばしてやったんだ。
そうしたらさ、遠くから笑い声が聞こえてさ、その時に思ったんだ。
ああ、やっぱり世界に嫌われていると。
教師? 死んだよ。
2階の窓ガラスを破って外に飛び出して、そのまま頭から墜落して即死したよ。
オレは窓とは違う方向に投げたのに、途中で方向が変わってさ。
まるで変化球を見ているみたいに曲がってさ、窓の外に飛んでいったんだ。
後は流れるように死刑宣告を受けたんだけど、もう好きにしたらって感じだったよ。
世界はオレが嫌いなんだろうから、とっとと終わりにしてくれって思ってたよ。
そうしてオレの刑は執行された。
少し眠いかも。