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目の前に、大きなスクリーンがある。
ほの暗い闇の中を、憂鬱な気が充満している。100席以上だろうか多数の席が、スクリーンと向かい合わせになって、ちょうど真ん中のシート。ゆっくり体を起こし、しばらく見渡した。人の息さえ感じない、空間。立ち上がろうとしたとき、スクリーンは鮮明になる。映画の予告のような映像が投影され、少し暗い状態から、漆黒へと変わる。
-始まりますね-
鼓膜がざわっとする。劇場内部をぐるりと見渡す。寸前で聞こえてきた声に、サイレントは切り裂かれた。
-ここですよ、ここ-
流れる声の先、視点はなかなかたどり着けない。先頭から三列目。右端から二番目のシートで振り返る者がいる。
本編が静かに上映された―
-目が・覚めたんですね-
〈冒頭は雨のシーンからだった。〉
-どうかしました?-
〈被写体の男ははびこる影にまみれながら、傘もなく、ただ、眠りゆく街をさ迷っている。〉
「…ここは?」
-ここ?…映画館ですよ。キメラパークの-
〈男は青ざめた顔で、頬をやつし、スクリーンにじわじわ接近する〉
-「フライング・デッド」ってわかります?その建物の前であなた、倒れてましたよ-
座り込んだ鴨居の隣に、その男。ニヤニヤした饅頭顔で、帽子も浅く被る。右袖についている〒マークや、右胸の部分の「郵便局」のワッペン。右胸ポケットに大量のボールペンなどを差しこんでいる。赤い変なマークのついた帽子のつばを、軽くつまみ、ちらりと目が合う。
-どうも。赤羽デす。-
JIDAIの住人―この世界で唯一の郵便配達員みたいだ。両目の間隔は狭く、鼻と口の間だけ、やけに離れている。眉尻の下がったハの字で、目が笑っていない。頬が痩せ、身に厚みはない。
「ここに来る前は何をしてたんですか?」
「…えっ?」
赤羽の薄ら笑いは、事を長ったらしく説明すると、真顔になる。
「ハ。バカじゃないの」
両肩をふるわして笑う赤羽。
「浮気して?ここ?うわー、やっちゃいましたね。」
上目遣いで、眉をぴっと上げる。ニタァ、、頬を横に広げた。
「おたく、名前は?」
…かも‥
「はぁ?」
「…“鴨居”といいます…。」
スクリーンの変化に呼応し、光から影へ、ステップする赤羽の顔。その1/2は怪しく闇を被る。
「…ここは」
「ん?」
「…此処は一体、どこなんですか…?」
赤羽はすぐには応えず、スクリーンの方を見つめていた。
〈迷彩を着た白人の男性が若い黒人の女性研究員と話し込んでいる。部屋の片隅で、二人は終始厳しい視線を送りあっている。〉
「…ですよ」
「え」
「カモイさん、ここ―」
ー人の快楽を、自由自在に、自分の物として受容できるんですよ。
「…は?」
「天国なんです。ここ。カモイさん」
〈光も朧気な一室で怪しげな袋を手にした白人男性がニタリと笑う〉
「テン、ゴク…」
赤羽はスクリーンの方へ指差して眉間に思いっきりシワを寄せた。
「もうコレ、飽きましたよ。退屈。出ましょ、ここ」
分厚いグレーの雲が横たわる空ー相変わらず光は、現れない。緑が世界を征服したかのような、錯覚に陥る。
-キメラ-
とローマ字で書かれているんだろうか。映画館の看板を何気なくみつめていた。古代遺跡のように悠然とたたずみ、頂点は石材のアーチが施されている。高さは10階立てのビルぐらいか。直径も相当長いため、大空間を造りだしている。
「…カモイさん?」
赤羽の怪訝な2個の目。驚いて、うっと出そうになった声を飲み込む。
「いえ…あ」
「は?。じゃあ」
「え?」
ちょっとー引き留めようとした声が上ずる。
「…なんすか?」
白と黒のコントラストで視界がぼやけてくる。
「で…グチ…出口はないんですか…?」
「出口?入場ゲート。いけば?」
「いや、あそこはもう…」
「…。」
「他にはないんですか…?」
「知らないです」今から仕事があるので。赤羽をまた引き留め、少し強い口調になった。
「いや、どっから来たんですか?アカバネさんは?それだけでも…!」
「無理ですよ。」
笑っているのに、死んでる目。帽子を深く被り、映画館の脇に停めている自転車の方へ向かった「―非常口みたいな所から出てきましたよね?見ましたよ」
「…非常口?」
「えぇ」
「何言ってるんですか?ビルじゃあるまいし」
「いや元々私はこの遊園地の外にいたんすよ―何か草ぼうぼうのところから―それが急に銀色の扉が出てきて。したらアカバネさんが出てきたんです。急に」
嫌そうな顔でずっと鼻の先辺りを見てくる。
「…こんな遊園地、来るつもりじゃなかったんすよ。」
「…。」
「…変な蝶を追いかけるんやなかった」
「…蝶…?」
「え、はい‥」
「チョウね。」
苦笑して立ち止まる赤羽に対し、すかさず、経緯を話してみた。
「え、じゃあ、おたくはババアを追いかけて、電車に乗ってきたってこと?そんでもって、あれか、蝶々を追いかけて、え?迷子になって、んで突然、銀色の扉が現れて、俺が現れた…ってことか?」赤羽の口調に圧倒されながらも、ごくりと唾を飲みこんで、頷いた。
「バカ。とりあえず帰ります」
自転車へ股がり、去っていく赤羽を、もう止める気すら、起きなかった
来た道を戻り。行き交う風景は帯となって流れる。左手の向こう側から「キメラパーク・ザ・ライド」が出現して、立ち止まった。木と木の間の上に、架け渡る鬱蒼な緑。小さな光が瞳のレンズと組みあわさり、瞼を細める。飛び交う虫たち。いらつく、視線。急ぎ足で、今度は「フライング・デッド」へ―。そのまま前を通り抜け、密閉される暑さに、じっとり視界がにじむ。
その先に、巨大生物のモニュメントが点在する世界。荒れくるう眉間にまた皺をよせ、、座り込んだ。曇り空の淡々とのびゆく下、砂の感触がする。巨大模型の股下を屋根にして、薄い影が忍び寄る。蝶を追いかけていた記憶がじんわり瞼の裏に蘇る。電車に乗りー、蝶を追いかけー、挙げ句の果ては、見たことのない遊園地までたどり着いて。
それは涼しげだった。蝶の背筋は、優雅に舞い、羽を通してちらつく、蠱惑な瞳。月光ノ下、足は、やがて蒼の獣道の前へ、至る。影と躍りし草木は乱れ、瞳孔が開いた。
一瞬、虫かと思った。小さな機械が羽を五月蝿く鳴らしながら去る。行き先はわからない。脈々と伸び散らかす林の奥へと消え去っていった
ポケットからしわくちゃのマップの存在を感じ、無気力に囲まれながら、とりあえず広げてみた。
「…」
行き先も定まらなかった。結局、映画館に戻り、その日は、朽ちた。
「―」だいぶ、寝いってしまったんだろうか。ばたんと扉の勢いよく開く音で目が醒めた。荒々しく近づいて来る、その音。
「…よぉ。まだ居たの?」
真横に陣取った赤羽が闇から顔を出した。スクリーンの物静かなワンシーンが、色めき立つ。
【業火に包まれゆく研究所】
真ん中のやや後ろの通路側に、二人だけ。郵便局員の格好をしたその饅頭顔は、相変わらず、目が笑っていない。僅かな間を感じながら、時間だけが立ち去っていく。
「どんな体験をしたんスか?」
声の先へ視点が、滑る。
「…体験?」
静寂に密着する一歩手前、振り返ったのも束の間。
「ここで色んなアトラクションに乗って来たんでしょ?」
スクリーンから放たれる光は、ほの暗い闇の中、まぶたを覆い隠してしまう。赤羽に、陰湿な笑みがこぼれた。
「詳しく教えてくださいよぉカモイサン」
「…え?」
「何乗ったんすか」
「何って…なんかメリーゴーランド乗りました」
「メリーゴーランドすか」
最初に味わった体験だけ伝えた。二番目の方は隠した。学校の踊り場。「小夏」という女の子に恋をしたこと。
「へぇー!ダンスして人気モンになって。青春しましたね。踊ってみせてくださいよ」
「いや無理です、そんなの」
「楽しかった?」
目を見開きながら、ニタぁと聞いてくる。
「いや、別に…」
「実際、学生時代はどうだったんすか?」
少し言葉を喪う。体勢を変えようとした。
「普通…です…」
「その“こなつ”っていう女はどういう欲を叶えてくれたんすか、おたくの」
“欲”―?。今は思い付いたのは答えなのか否か。回答する覚悟はあるか。じっと見つめてくる赤羽の好奇な瞳。
「欲って…」
思わず、腕を組んだ。
「違うんすか?」
根拠ない反論が口から溢れかけた。直感を信じて、ただ脳に駆け上がる、何か得たいの知れないもの「まぁ…学生時代、そんなモ―
「ー人間、“欲”ってあるでしょ?それを自在に自分の快楽にする事ができたら、最高じゃないすか?」
ー望みを叶えたり。快楽を与えたり、与えられたり。赤羽は、顎を引いて上目遣いになった。
「自分では何もしなくても、周りが全て責任をとってくれる。思い通りに楽しめる。そういう世界なんですよここは。」
片側だけ口角は上がり、左右非対称の、笑い。
「最高じゃないすかー」
赤羽の笑顔が一瞬で消えた。
「だから、こっから抜け出すのは無理すよ」
薄暗い館内で流れる夕暮れのさざ波と、誰かの声。そのワンシーンが死を彷彿とさせる、茜色の終わり。
チャコールグレー一色の郵便局員の格好は、この場にふさわしくない―只、帽子を外し、かぶり直す眼が、なぜか生き生きとしている。
「ただ、探してる“もの”を見つけてくれるなら‥協力しないこともない。」
「…探してる“もの”?」
「ちょう」
「え。」
「おたくが見たっていう、蝶ですよ!」
空中を揺らめいて、悠々自適な瑠璃色―強い、鮮やかなブルー。
放たれた光と音で、赤羽の表情が照らされる。その仏頂面が一瞬、打ち解けたような顔になる。
「…わかりました。」
「お」
「でも、あれですよ、ロクテンのこと、ちゃんと教えくださいね―」
「だから、何回も言ってるでしょ。おたくの【欲】が全て満たされる世界なんですよ。…アンタもしつこいなぁ。」
「…」
「でも、まぁ、あれだな、あんたにはこの世界、どう見える?」
突拍子のない問いに思考が停止する。
「この“遊園地”のことだよ。いろいろ行ったろ?実をいうと同じ空間にあるように見えて、全く、違う。別々の“JIDAI”と繋がってるんだ」
目が合った―赤羽はせせら笑い、胸ポケットからペンと小さなノートを取り出した。
「JIDAIの意味は知ってるか?」
「…なんとなく。」
「天国でもなければ、地獄でもない―中途半端な世界―ここロクテンは“JIDAI”を7個集めた世界で成り立っている。」
ノートに図を書いてくれるが、字が汚すぎて、よくわからない。
「ーロクテンのJIDAIは、あまりに特殊で、欲望を満たすだけの…ぶっちゃけていうと、風俗」
「…風俗?!」
「風俗アトラクションです」
饅頭が、ニタァと笑う。
「聞かせてください。あなたの体験を」
「いや、です」
「そんな他人にも言えないヤバいヤツなんですか?」「…そーゆうやつでは」「なにを恥ずかしがってるんですか?ー
もう死んでるのに。
笑う赤羽の声が乾ききった心に反響する
「恥ずかしがるなよ。何でも受け止めてやるよ、言えよ、おら」
「……。」
「これから仲良くやっていくんでしょ?隠し事はよしましょうよ。」
「…」
「なんでも受け止めてやるから。…スカトロか?…ションベンか?」
「…オムツをー」
「―はい?」
赤羽の眉間には苛立ちが見え隠れした。
「オムツを交換してもらっり…」
「赤ちゃんプレイか。だいぶ、屈折してるな」
「ちゃいますよッ…なんていうか、入院してるんですよ、僕がね、看護師さんが、若い女の子で、突然現れて、僕の、その…オムツを交換してくれるという…」
「要するに赤ちゃんプレイじゃねぇか」
「だから、ちがいますって!」
「なんだ、漏らしたのか。え?若い女にシモの世話されて。」
映画館の闇を赤羽の甲高い声が揺さぶる。ニヤニヤしながら、口元をぬぐい、歯が何度も露出する。
気味悪くなって、されど病み付きになりそうな誘惑。振り返るとき、看護師の若い母性を感じてしまい、後半、壊れかけていたのは事実。
「面白いね。鴨居さん」
またほくそ笑んだ。
「…」
「てゆーかさー、持ってるでしょ。みんな。誰しもが。物語みたいなもんを。でも、人生って、一度きりでしょ?それが、ここでは何度でも、好きなだけ、変えられるんです。知らないですけど」
「…急に、どうしたんすか?」「気にならなかった?」
蝶のこと。ー赤羽はあどけなさの残る顔を、じっとこちらに差し向けてくる。瞬きひとつさせずに。
「…蝶?」
「おたくが体験する前のこと、よく思い出してみてくださいよ」
目の前の景色を構成する、あらゆるもの全てが一瞬にして、舞い上がる無数の蝶。降り注ぐその漆黒はべたべたと体中に貼りついて、離れないー。肌から何かをすいとられ、貪りつく。蠢き回るキモチ悪さがひと回りし、やがて元の視界に落ち着くまで。苦悩は続く。
「…なんというか、大量の蝶に視界を奪われて…そのあと、暗くなって別の世界に入っていくというかー」
「ずっと、郵便配達員やってたら思うんですけど。ちょっとやっぱ、ズルくないですか。ここに来る奴って。俺がどれだけ働いても、快楽なんていう体験は一度も味わったことないのよ。一回だけ“フライング・デッド”に入ろうとしたらさ、あいつら、邪魔してくるんだ」
「あいつら…?」
「あいつら。チョウだよ。チョ・ウ・チョッ!」
「…」
「あいつらはね、今の生活になに不自由ないやつほど…虚しさを抱いてることを知ってるんだよ。あいつらはそれを満たすため、極端なことを実行する。」
例えば、オムツを替えてもらうとかね―にやっと赤羽の好奇な目がこちらに運ばれる。暗がりに耽る中、スクリーンの輝く世界。見覚えのあるシーンがまた流れている。
「いいねカモイさん。その顔」
「…チョウがそんなことするんすか?」
「はい?」
尖らせた目をいっそう険しくさせ、赤羽の口は半開きとなった。
「…なんで、チョウがそんなことするんですか?」
「知らねぇよ。そんなこと。教えてほしいくらいだよ」
「…それとあのマスコットキャラクターは何なんですか…。アトラクションから出たら、なぜか減っていく銅像も…。訳が解らないです。どうしたら出られるんですか」
赤羽の顔から色が抜け、無の状態へと移り変わっていく。
「…五月蠅いなぁ」
「えっ?」
「じぶんで考えろよ」
不機嫌な顔されて、ボソッと言われる。
「まだ見返りを受けてないだろ。自分で調べろ」
「…は、はい」
赤羽がわざとらしく、笑みをこぼした。
「とにかく知らないものは
知りません!あんた、裁判して、ここに流れ着いたのでしょ。出入口のことはあんたのが詳しいでしょ。」
不意に言い返す気持ちが芽生えたー。が、黙りこんでしまった。
「ここまで来るのに、なんか気になることとか、可笑しなことなかったんですか?ひとつも」
「…」
蝶しか…
「…あの蝶しか…」
「他には?」
「大分歳いってる弁護士とか、、あとは…鳥居とか」
「トリイ?」
「はい」
「トリイって、あの?」
「はい。あの。」
「…そういうのでもなんでもいいから、言えよ!ここを出られるヒントがなんか分かるじゃん」
「…はい」
「続けて。その、トリイの話」
「え。あ。はい…。へんな鳥居を見かけたんです。」
「へんな?」
スクリーンからの淡い光を受け、赤羽は映画の方に気が散っているようだった。
「…弁護士と別れたあと、電車に乗って気付けば、終着駅まで来てたんですー
「その話はどうでもいいから、トリイの話」
「え、あ…はい。」
ー不思議な蝶を見つけて…。
追いかけていたら、足元にめちゃくちゃ小さな鳥居が並んでて、まがりくねって山に向かって列をなしてるんです。とりあえず鳥居のある方向を歩いていったら…。
その後、赤い道と青い道の、二つの径があったんですよ。
「二つのミチ…?」
「…はい。多分、色ちがいの落葉があったので、赤と青は落葉の色だと思います。」
「…ふーん」見ると、おもんなさそうな表情を浮かべていた。しんみりとした音楽で混ざり合う男女の映像が横目に流れる。
「ところでさぁ、弁護士って誰よ?」
「え…弁護士ですか。」
年老いた顔が脳裏に浮かぶ。山なり帽に、白髪頭。狭い額の、大きな鼈甲色のメガネ。
「高橋って言う名前だったと思います。いや…高山だったかな」
「どっちでもいいよ。そんなの」
「…」
「その弁護士はなんか言ってなかったの?」
「え、いや、あの…よく覚えてなくて」
「たく、使えねぇな」
「…。」
こちらには目を合わせてこない。
「アトラクションで見た夢は?なんか誰か言ってなかったの?」
咄嗟に回答できず、もたついていると
「はぁ…ただのムッツリスケベかよ。おたくはそれでいいですよ…満足してるかもしれないですけど…おたくはね!」
ドリップのような汗がじんわり、額ににじみ出る。時間が経つにつれ、臭みは増す。疑り深い目で赤羽にじっと見られたあと、腰のポーチから取り出した一冊のノート。極めて小さいそのノートは、赤羽の神経質っぽい指にぺらぺらめくられている。
「アンフリサス・ワールド・オブ・キシタのフードコートでラーメンを頼んでください。」
「え」
「あの~店員の動きを見てくださいね。入口じゃなくて、出口の方。」
「え?」
そう言って、赤羽は帽子を
浅くかぶりなおした。身支度をした背中は出口の方へ向かっていく。暗がりに取り残された二個の目は、辺りを見渡し、最後、スクリーンの絶叫で、我にかえる。
「ー」
あれからというもの、映画館を出て、ただ目的もなく、深緑の世界に浸かった
たるんだ膝に、手がいく。古びた映画館はサイレントを身にまとっていた。いったい、どういう意味だったんだ。
鳥類の鳴き声が響き渡るアトラクションエリアを突き抜けたら、巨大模型のお膝元、“パークガイドを握りしめていると―”
荒野を越え、茂みのさざめき。煌めくエメラルドグリーンの霧。見覚えのある、真っ白な湖岸が出迎えた。ゴライアス・ワールドに辿り着いたー。
視界は戻り、コンクリートの建物の傍ら、円形の泉が近くに佇んでいる。盛り上がった水が、四方八方絶え間なく溢れている。
湖の向こう岸“アンフリサス・ワールド・オブ・キシタ”を目指し、干からびた漁村に入った。奥へ突き進むと寂れた景色からブロック塀や有刺鉄線の世界に切り替わる。工場のすぐ近くにある「学校」前で立ち止まってしまう。マップを確認する。点在する水産加工、魚市場、船の修理業、造船…同じような景色を眺めながら、ここまで来た。このまま行けば、目的地へと恐らくたどり着くだろう…グラウンドの右手に脇道が延びている。その先に、マップで記されていない、路を見つけた。曇り空の下、何気ない視線がだだっ広く
続く。
結局、正規ルートに従い、柵が疎らな湖の畔を歩いていった。指で奏でるような音を聞きながら、工場の前を通る。うっすらと見える「製氷工場」という文字。無造作に置かれたオリコンは傾き、入り口付近で、萎びたロープの群れが居場所なく横たわっている。苦悶で苦悶を重ねながら空中へと浮揚する景色。浮かぶ、窓のない工場。何かを問うているのか、そのなにかが。今の自分には解らない。
工場を過ぎたらひっそりと森に囲まれたー。重厚な門が、迷い人を受け入れるー。




