表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
延命男  作者: 風魔和之
色欲
7/9

7

 気付けば、雨は止んでいた。


 窓のない建物の前で、目が醒めた。個性もなく特徴すら感じさせない、灰色のコンクリートの入口。一ヶ所しか入口は見当たらず、目立つように何かのマークが刻まれてある。

 無機質な声が蘇る。

 気が楽になりますよ

 あの鳥のような、孔雀に似たマスコット―トリバネ―。ギョロっとしていて〈ただそこに瞼はなく〉真っ黒な2個の瞳が見返すあの光景。頭を離さない。ずっと。

 浮き上がるように思いだし、恐ろしくなって、その場を離れようとした。逃げよう、と。すぐそばには、円形の物体から盛り上がった水が四方八方絶え間なく溢れている

 。。。

 目の前の大通りを、走る、走る―。一枚岩に異次元が()え、腐り果てた枝の先から実る、たわわな卵黄。どこかで見かけた景色がぶれながら、嘲笑う。ダメだ、逃げないと。

 曇り空の下、入場口まで引き返してきた

 誰もいない広場の案内板。辿ってきた道はちょうど入場口前広場からみると、中間地点に過ぎないことを知る。

 案内板は明るい廃墟を俯瞰的に観ることができた。各エリアの紋章が表示されている。湖を中心に7つのエリアが広がっているみたいだ。気味の悪い文字が、エントランスから時計周りで紹介する。

【2015年3月にロスチャイルドパークがオープンし、現在は7つのエリアで構成されています。2022年にはロクテンのキャラクターとその世界観をテーマにした、「SUPER LOKTEN WORLD」がオープン予定です。】

0.エントランス(入り口)

【ロクテンの入り口ゲート付近です。コインロッカー、ゲストサービスなどがあります。ゲートを入ってすぐのこの場所では、トリバネ、キシタ、アカエリなどのキャラクターの銅像が出迎えてくれます。MAPが付いているパークガイドはエントランスの入場ゲート付近にありますのでぜひご活用ください!】

1.ハリフロン・エリア

【エントランスからY字路の左手へ進むと当該エリアがあります。大人気アトラクション「ハリフロン・ドリーム・ザ・ライド」もこのエリアです。屋根(キャノピー)の下にたくさんのお土産グッズのショップが立ち並んでいます。クサビモンが時々お散歩しているので会えるとラッキーです。】

2.ブーゲンビル・エリア

【ブーゲンビルマンやリダリダXなどのアトラクションがあるエリアです。大きな腕のモニュメントがあるステージでは様々なイベントも行われます。】

3.アレキサンドラ・パーク

【ゴクラクたちが作った街アレキサンドラ・パーク。ゴクラクの破天荒ライドや、ショーを始め、かわいいゴクラクグッズやフードもいっぱいです! ビクトリア・エリアはJIDAI随一の港町、ビクトリアタウンが再現されています。ビクトリアの倉庫を改造した、お洒落でトリッキーな「オビメガネ・カフェ」や、スナック・スタンドをイメージして造られた「ヒレオカフェ」などがあります。】

4.キメラ・パーク

【亜熱帯の樹木が生い茂る、ハラハラドキドキのエリア。映画「キメラ・パーク」などの人気作品を上映している映画館もあり、大人気アトラクション「フライング・デッド」や、「キメラパーク・ザ・ライド」があります。】

5.ゴライアス・ワールド

【湖に浮かぶ近未来都市「ゴライアスワールド」では、アトラクション満載の水上スタントショーが楽しめます。夏には「トリバネ・プレミアショー」が開催されます。グリッパー・ブルー・ビレッジはJIDAI唯一の漁村「グリッパー」を再現したエリアです。】

6.アンフリサス・ワールド・オブ・キシタ

【魔物たちが住み着いて腐敗したアンフリサスの世界観をそのまま再現したエリアです。クリトン村を抜けた先にはそびえ立つヘレナ城が!人気のキシタビールやアカエリラーメン、トリバネチョコなどもこちらのエリアで販売されています。】

7.ロクテン・ワンダーランド

【トリバネやキシタ、アカエリの仲間たちが住む町をコンセプトにしたエリアです。みんなで楽しめるアトラクションや施設がたくさんあります!】

 もしわからないことがある場合は遠慮せずにクルーに聞いてみましょう!

―読み終えた鴨居は指先を案内板に這わせる。そうするとトリバネのいた建物は5番、ゴライアス・ワールド…になるのか。エントランスから右へ向かい、途中で「7.ロクテン・ワンダーランド」「6.アンフリサス・ワールド・オブ・キシタ」を通り過ぎていたことになる。エリアのコンセプトなんて初めて知った。クルー…そんなのがいるのか

 MAPが付いているパークガイドを手に取り、入場ゲートへ向かった。

 明るい廃墟を出よう―そうだ。草臥(くたび)れた入場ゲートへ一目散に走る。

 何かを見送るものたちの(すがた)。入場ゲート手前で奇妙な出で立ちを保つマスコットキャラクター。今にも動き出しそうな、その奇妙な像をひとつひとつ、目で追った。

 丸眼鏡をかけ、頭の山なり帽が様になっている者。複数の尻尾をもつ白い狐。

 黒い体毛が覆い、頭の真ん中において長い角を示したる者。羊に似て非なる姿、蝶ネクタイが印象的なファッションを纏う。

 スーツ姿に不相応な大きな甲羅を背負いし者。年老いた顔には、水色の皺が刻みこまれている。

 トカゲを真似ているのか、細身の外見に、ネクタイが襟元から垂れている者。

 黄色い毛が覆う顔、龍の如く、角を持つ者。見た目は鹿に近く、背広姿のノーネクタイ。

 青を基調とした大鳥の羽根で魅了する者。姿かたちは(キジ)をより豪勢にした、男の装い。

《園内は、あらゆる光で青ざめて、闇と優雅に融け合っている。》

 二頭身の不気味なキャラクターたちは、崩れ落ちる入場ゲートの様をただ傍観しているだけ。立ち止まる鴨居。

 目の前で遮断される未来。

 様子が、少しずつ異なって、重力を嘲笑うかのように崩れ落ちている。可笑しさも込み上げず、それは不気味な光景として成り立つ。

 …

 胸が軋む。気味の悪い音を立てながら。このまま、進むことなく、0をさ迷うのか。孤独感にさいなまれ、別の道さえ、進むのをためらうのか。頭が。

 ―。

 柵が疎らに張り巡らされた湖の(ほとり)

 来た道をあてもなく、進むこと数十分。辿り着いた先、水面は雪のように白く、遠くのエリアの景色がくっきりと広がる。湖に浮かぶ近未来都市「ゴライアスワールド」。アトラクション満載の水上スタントショーが楽しめる―と、書いてある。生き物がすんでいる様子もなくただただ神秘的な輝きを放つ。櫓だろうか、入江にたたずんでいる。沿岸から一番近い所には小さな村が形成されている。傷んだ漁船を休ませる船着き場がある程度。古い看板が掲げられて傷ついた文字が辛うじて読めた。“もし外部から来た漁師が、グリッパーの砂浜で水揚げをする場合、その漁師は必ず許可を取り、村の長にいくらかの魚類を納める事。許可なく立ち入りを禁ず”

 途方もなく沿岸から離れ、辺りを見渡してみると、漁村には工場や学校、診療所らしき建物が点在している。これに加え、水産加工、魚市場、船の修理業、造船が寂れて存在する。魚類を捕獲するための網なのか集落のあちこちで曇り空の下、だだっ広く干されてくたびれていた。

“パークガイドを握りしめていると―”

 煌めくエメラルドグリーンの霧。真っ白な湖岸と融合する時、まるで楽園に迷い込んだみたいだった。そんな美しさを背に、うってかわって、じわじわ包まれていく不安。方角を見失い、そびえたつ孤独感。しぶきをたてて激しく打ちよせる。

 ここは個性もなく特徴すら感じさせない、出口のない霧の中。灰色のコンクリートの入口がうっすらと見えて、その一ヶ所に光は集まる。他はどこにも見当たらず、入口の何かのマークが刻まれているだけ。小さいし、細かすぎてよくわからない。

 霧が薄れ、景色は生まれかわる。視界は戻り、コンクリートの建物の傍らに佇んでいた。近くに円形の物体があり、そこから盛り上がった水は、四方八方絶え間なく溢れている。

 生半可な記憶でべたついた額。プレッシャーで押し潰されそうだ。歩みがまた遠退く。

 円形の泉を越えて奥に進むこと数分、次のエリア「キメラ・パーク」が現れる。

 樹木が生い茂る先、飄々と広がる、荒野。分厚いグレーの雲から日は、漏れない。なのに浮き上がる汗が、()りつづける。天をも畏れぬ巨体で君臨する獣たち―誰に作らせたのか、各時代の絶滅動物が点在し、何とも言えない独特な世界感を漂わせる。何のために作らせたのかはわからない。知らなくてもいいと感じたのは、とても生き生きとした模型の目に、恐怖さえ覚えたから。

 いすわる巨大模型の足元を横切り、ジャングルへ―すぐさま、エリアマップを確認した。このまま行けば、左手から「フライング・デッド」に迎え入れられ、右手は「キメラパーク・ザ・ライド」。アトラクションエリアの先は、映画館となっている。

 マップをとじ、ジャングルに囲まれたなら、不思議な獣たちの鳴き声。足元も時折、化石が露となり、巨大な足跡。ジャングルを探検するサファリカーさえ、繁みの中で、放置されていた。

 コンクリートで出来た大きな建物に、長年使われていなかったのか、蔦が蔓延している。何かの貯蔵施設にもみえるそれは

《ロクテン最長×最大高低差の最新鋭コースター『フライング・デッド』暴走するジェット気流に背中を掴まれ、全身むき出しで空を飛ぶ! キメラ・パークの世界のなかを360度振り回される、日常が吹っ飛ぶ“ありえない”快感が、ここに。※》

※コース全長1,614m、ファーストドロップにおける落下高度41.8m。

「……。」

 一瞬、虫かと思った小さな機械が案内板の周りで羽を鳴らし飛び交う。脈々と四方八方に伸びた樹木からは電線管のようなものが地中まで根を下ろしていた。

 唯一整備された道を挟んで、次のアトラクションが前にそびえ立つ。高圧電流が流れる柵に囲まれ、おどろおどろしい文句で警告する。研究所のイメージで造られた外観なのか、やたら手が込んでいる。

〈亜熱帯の樹木が生い茂る未知の島キメラ・パーク―大地をねり歩く巨人に出会い、古代生物を甦らせたサイエンスの驚異を目の当たりにする感動のリバーツアー『キメラパーク・ザ・ライド』。しかし、コースの先には荒れ狂うマンモスが。絶体絶命のピンチ、襲い来るマンモスから逃れるため、ボートは39.9m下へと、まっ逆さまに!〉

【―】

 一台の自転車が通り過ぎていった。郵便局員風の男を乗せ、猛スピードで立ち去っていく。「フライング・デッド」の方へ向かってゆくのを、気付けば追いかけていた。小さくなる男の姿を頼りに走り続け、フライング・デッドの角で見失う。

 何かのマークが至るところで刻まれし、壁。歴史を浮き彫りにする。外壁の蔦は我が物顔で蔓延り、支配しているように見えた―

 それは

 階段しかない闇の入り口から聞こえる。近くまでじりじり進み、闇を黙視していると風にのせて又、色濃く聴こえる。ただ闇に浸かり、入口から無の境地へ向かう時。聞こえたもの、信じ、また沈み、浮き上がる静な暗部をひたりひたり・進んでは立ち止まりを繰り返す。何もかも失った【無】の空間で、個性的な風たちに手をとられながら―。

 その無気力な風は目的なく煽り、不安を募らせる。突然、向かい風が発生し―研ぎ澄まされた神経に自分の匂いや吐息は触れる。知覚を変容させ幻の(さえず)りに誘われた瞳が、ゆっくり進んでゆく。前方から、こちらに向かって吹いて来る湿気の少ない風で、不安が取り除かれ、気持ちは落ち着いていく。だが時に激しく、精神を興奮させ、嵐へと変化(へんげ)する、狂う強めの風は周囲から旋回し、吹きつける青い闇。

 ばんと―勢いよく開かれた何か。千の光、ともに現れ、青を基調としたその姿かたち。(キジ)をより豪勢にした、男の装い。動物なのか人間なのか。巨大な翼から(ちから)()き放ち、全貌が露になる。目の前に、二頭身のマスコットキャラクターただ一点。

 無機質な声で、いい放つ。

-支配人のジャコウ**-

 え?

-**、これから素敵な場所に案内しますのでついて来**-

「―」

 廃墟と化した施設の装い。天井モニターには無音の砂嵐。静けさを身にまといながら、非常灯は妖しく点滅し、鉄製の網が張り付く暗い壁の連続。通路の奥にいくと扉がひとつ有り、開かれた先、殺伐な景色は一変する。

-ココはキメラパークのコンピューター操作室*す。絶滅した生物種がDNA操作によって蘇り、完全に管理されていまし*-

「…」

-しか*、ある嵐の夜、コンピュータが緊急停止してしまっ*。コントロールを失ったマシンが、支配していた人間たちを襲い始めるノデス-

 キメラ・パーク探査ツアーに参加したゲストを、暴走するジェット気流が背中を掴ムー!全身むき出しで空を飛び、キメラ・パークの世界のなかを凶暴な風に360度振り回され絶体絶命に―!およそ42mの高さから一気にダウン!恐怖のダウンは最高傾斜51度!大興奮、大迫力のライドです。登場する古代生物は8種類。クライマックスでは、体長3mの恐鳥類ディアトリマがあなたに襲いかかりまス

-FACILIS DESCENSUS AVERNO. 360度振り回される、“ありえない”快感が、ここに。シュプリーム・キメラ!-

「…。」

 サファリカー風のライドがジャコウの背中越しから滑らかに現れた。案内された白線の内側でしばらく待ち続けていると、ドアが両翼を広げるように開かれる。

-サァ、座席に腰掛けて安全バーをお腹の位置まで下ろしてくださ*。この3Dメガネをかけたら、出発の合図が鳴り響きま*!ライドは暴走し飛び出したあなたの体はジェット気流に背中を捕まれるような、そんな、

 体感に浸れルデショウ-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ