チョロインと修羅場
話し掛けて来たのは3鬼の中で見た目一番年齢の低い──末妹の一本踏鞴、鍛冶スキルを与えた所為か、蓮っ葉な印象がある。
「ああ、そうだ。
お前達の主人でダンジョンマスターのソーマだ」
「そう、よろしくね。
それでさぁ、なんであたい達は生まれてそうそうにあんな物を見せ付けられたの? いくらあたい達がご主人の配下とはいえあれはどうかと思うんだけど……。
妖怪とはいえ、あたい達も女の子なんだしさ」
「ああ、うん。
それは悪かった、単純に気が回らなかったんだ」
剥ぎ取りはいつものことだから、気にすらしてなかった。
「……まぁ、わざとじゃないならあたいはいいんだけどさ……あたいは」
「それはありがたいが、なんか含みがあるな」
「いや、ね、本当にあたいはいいんだけどね、姉さん達が……」
そう言って一本踏鞴はその一つ目を隣へ向けたので、そちらを見る。
「……眼に、焼き付いちゃった……」
「ふぇ~ん、将来の旦那さま以外の人のなんて見たくなかったよ~」
そこには目を閉じて苦い表情をしている百々目鬼と、ヘタリ込んで泣いている産女の姿があった。
次女である百々眼鬼は複数ある目でもろに侵入者の全裸を見たために克明に覚えてしまったらしい。
とはいえ、見た感じ嫌なものを見た、っていう程度の嫌悪感しか見えないのであまり気にしなくてもよさそうだ。
問題なのは長女の産女。
3鬼の中で一番大人に設定したはずなのに精神が幼いようだが、性的なことは理解しているらしく泣きじゃくっている。
外見的には『ふんわり系お姉さん』タイプなのだが、こうも子供のように泣きじゃくっているとなんつーか──
「痛々しいな……」
思わず本音がポロッと口からこぼれ落ちる。
「ご主人……男なら嘘でもいいから可愛いとか思ってあげようよ」
「……うん、そして慰めてあげるべき」
「いや、無理だろ」
二次元の世界なら可愛いとか思えるんだが、現実に(ふんわり系とはいえ外見的に)いい年こいた大人がやると痛々しさしかない。
ちなみに、一本踏鞴の外見は『少し筋肉質なスポーツ娘』で、百々眼鬼は『スレンダー系クールビューティー』になっている。
「グルル」
「ふぇっ……とらさん?」
俺がドン引きしていると、見兼ねたのかゼンが産女を慰め始める。
……悪いな、ゼン、助かった。
「グルル、グル」
「う~、でもでもぉー……」
「グル」
「ぅん、わかったよ、とらさん」
「グル、グルル」
「うん、ゼンくんだね」
ゼンの慰めがうまいこといったらしく、産女は泣き止み──
「ありがとね慰めてくれて、お礼をしなくちゃ……」
頬を赤らめながら──
「でも、ワタシ生まれたばかりで何も持ってないから……初めてのキスをあげちゃう」チュッ
ゼンの鼻先にキスをした。
……どうやら産女はチョロインのようだ。
それはさておき、ゼンにそんなことをすると──
「ヒョォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
当然、ツグミは怒り狂うわけで、ここが雷ヶ原から修羅場に早変わりしてしまった。
さてチョロイン相手に意図せぬフラグを立ててしまったゼンはこの修羅場をどう回避するつもりだろうか?
「……ねぇご主人様、修羅場? これって修羅場だよね」
「ああ、修羅場だが……なんで嬉しそうなんだよ」
ロウだったテンションをハイにし、全身の目をキラキラさせながら問いかけてくる百々眼鬼に答えつつツッコミをいれる。
「だって面白……滅多に見られるものじゃないから」
面白いって言いかけてたな。
「多分これからはちょくちょく見られると思うぞ」
「ほんと?」
「ああ」
修羅場が一回や二回で終わるわけない。
命の奪い合いになったり、ゼンが上手いこと修羅場を捌ければ別だが、それは無理だろう。
命の奪い合いは俺がダンジョンマスター権限で止めるし、ゼンに修羅場を捌けるような器量はなさそうだから。
……六花達には雷平原への立ち入りを禁止した方が良いかな? なんか教育に悪そうだ。
「ねぇねぇご主人ご主人、あの鵺の……え~と」
「ツグミだ」
「ツグミさんってあの虎のゼンさんだっけ? ゼンさんのこと好きなの?」
「やっぱわかるか?」
一本踏鞴がストレートにツグミの感情を質問してくる。
「うん、だってあからさますぎるもん」
……質問と言うよりは答え合わせと言った方が正確か。
「補足するとゼンもツグミのことが好きなんだがな」
「ありゃ、両想いかぁ……おねぇも大変だ」
一夫多妻を築くならともかく、普通に考えれば詰んでる状態だわな。
「おねぇにとって幸か不幸かはわかんないけど、ツグミさんの方が照れて想いを伝えられていないみたいだけど……」
「もしかしたら産女が告白きっかけになるかもな」