椿と渚
文車妖妃から情報を得てから1ヶ月、ダマれ!で色々話しあった結果、大侵攻の標的にされる可能性が一番高いマスターは魔王さんみたいだ。
……いや、一番高いと言うよりは一番人気と言った方がいいか?
情報流したら次の瞬間にはトトカルチョスレが立ったんだよなぁ……。
ちなみに他の候補は輪廻さんや、あとは勇者(笑)くんなど。
魔王さんのところは世界的に有名なダンジョンだからで、輪廻さんは過去の人体実験(お嫁さんを創るときにやりまくったらしい)の悪名から。
他にも面識がないから詳しくはわかないけど、色々スゴい人がたくさんいるらしい。
ちなみに勇者(笑)くんが候補に入っているのは人類的に見れば裏切りの勇者だから目の敵にされているらしい……可哀想に。
さて、ここ最近は侵入者の質が明らかに変わっている。
ダンジョン内で採取や狩猟をする侵入者が増え、妖怪たちとの戦闘を避ける者が増えたのだ。
どうやら宿場町がうちの攻略を諦めたのは本当らしい。
妖怪に被害が少なくなったのは良いことといえば良いことなのだが、同時に問題もある。
それは追い出される侵入者が少なくなったことで撃退で入るポイントが減ることだ。
撃退というのは戦って退けなくてはいけないので、勝手に出て行った場合や戦わずに逃げられた場合はポイントが入ってこない。
また、妖怪との戦闘を避けない者も厄介になってきている。避けない者はだいたいが本気でダンジョン攻略を目指す奴で、これまでとは実力や気迫が違う。
しかも、本気の奴らは戦闘を避ける素人同然の奴が居ると追い払うので、素人を利用した罠や戦術が使えないから困る。
しかもそれらの条件が重なって、低レベル妖怪の育成がやり辛いし……。
これがちょいと問題なんだよなぁ……。何せこの間、蜘蛛夫婦とコクホウ・ナデシコの子供がついに孵化したのだから。
蜘蛛夫婦の子供は♂で種族は鬼蜘蛛。
1mほどの大きな蜘蛛で腹の部分が鬼面になっている。
椿と名付けた。
コクホウとナデシコの子供は♀で種族は七歩蛇。
大きさは12cmほどだが、外見は蛇というよりは龍に近い……いや、コクホウの河童要素はどこへ行ったよ? 色も白いし……。
こっちは渚と名付けた。
ツバキとナギサは生まれた日が同じなせいか、かなり仲が良く、よく二鬼一緒にいるところをよく見かける。
まぁ、一緒にいると言っても、ツバキの上にナギサが乗っているんだけどな。
今のところアホの子──子河童たちの汚染はないようで、素直にすくすく育っている。
完全隔離は逆にツバキとナギサの為にならないので出来なかったが、出来る限り接触を少なくした甲斐があったな。
ツバキとナギサは両親ともに名付きのせいか、ステータスにかなり恵まれていて、すぐにでも実戦に出せそうではある。
だが、先に挙げたように侵入者は逃げるか、強い……というか戦い慣れしすぎていて出撃させるのに二の足をふんでいる状況だ。
名付きは死んだら復活が難しいからなぁ……。
かと言って出撃させないわけにもいかないし…………とりあえず1層の見学だけでもさせとくかな。ちょうど今侵入者が居るし。
「お~い、ツバキとナギサ~雷ヶ原に行くぞ」
「しゃぁ~!」
「しゅっ!?」
早速二鬼を呼び出す。
ちなみに元気よく返事をしたのがナギサで、驚いているのがツバキ。
ナギサは元気系でツバキは気弱な感じだ。
仮にも鬼の要素を持つツバキが気弱なのはどうなんだろ?
「しゃしゃ~♪」
「しゅぅ……」
以前から自分も戦いたいと直談判してきていたナギサは大喜びで、逆にツバキは意気消沈している。
ツバキはよほど行きたくないみたいだな……できれば断りたいという気持ちが手に取るようにわかる。けど、まぁ……無理な相談だわな。
ダンジョンマスターからの直々の命令だし、仮に俺が命令を取り消してもナギサに付き合わされるからな……それも力尽くで。
力尽くってのは物の例えではなく、文字通り力……腕力でだ。
龍に近い外見は伊達ではなく、ナギサはその小さな身体からは考えられないくらい力が強い。逃げるツバキを捕まえて持ち運ぶのくらいわけないそうだ。
でもまぁ、気にしなくてもいいぞ、ツバキ。
「あ~、喜んでいるところ悪いがナギサ、今日は見学だけだぞ」
だって見学だけなんだから。
「しゃ、しゃぁ!?」
「何で、って言われても……危険だからだ。
少し前までならともかく、今は妖怪を見たら逃げる侵入者か、お前らには強すぎる奴しかいないからな……」
強い方は少なくとも、模擬戦で親河童相手に一対一では勝てないナギサには厳しい相手だ。
ステータス上ではナギサは親河童に引けをとらないが、実際闘うと親河童にいいようにされて負けてしまう。
それは戦闘経験の差もあるが、親河童のトリッキーな闘い方に翻弄されてしまうからだ。
侵入者……ある程度経験をつんだ、数多の道具を駆使する冒険者も親河童程ではないが予想外の行動をとることがあるのでナギサには厳しいだろう。
「しゃぁ~」
「しゅしゅしゅ……」
戦闘に参加できないと知り、落ち込むナギサと慰めるツバキ。
「……まぁ、相手が弱そうだったり、野生動物がいたら闘わせてやる……」
あまり凹まれても面倒なので、ナギサにそう言い残し先に雷平原へ向かう。
……まぁ、そんなのはいないんだけどな。
そういや、そろそろゼンは進化してもおかしくなさそうなステータスだけど、まだ進化しないのかな?