疲労
「さて、どうするかな」
「ごめんなさいお兄様、ついやっちゃったわ」
どうしたものかと思案する俺の言葉に、珍しくしょげる久遠。
「まぁ、さっきの行動自体は悪いことじゃないからいいけど……この空気だと出て行くのは無理っぽいな」
それというものも、俺がここに来た目的にある。そう、ここへは刹那に魂のことを聞きに来たのだ。
だが、とてもじゃないが、仙術を使いこなす糸口を掴み、訓練に熱が入った刹那の邪魔をすることはできない。
端的に言うと、ここに来た目的は久遠の所為で達成不可能になったのだ。
……まぁ、久遠と違って顔を出してないので、気まずくはならないから、不可能というのは言い過ぎかもしれないが、出て行き難いのは確かだ。
「……まぁ、さっきも言ったが悪いことじゃないし、刹那の為になったから気にするな……とは言わないが、あまり気に病む必要はないぞ。魂の件だって急ぎじゃないんだし」
「ええ、次から気をつけるわ。それと刹那のところに行かないなら、離れた方がいいわよ。
仙術は周囲の気を取り込むという性質上、周囲の気配も敏感に感じ取れるようになってるから」
とはいえ、久遠を責める気はまったくない。反省はしているし、いつも澄まし顔で余裕綽々な久遠の珍しい一面も見られたしな。
久遠は六花や刹那と違って、感情や表情を取り繕うのが上手いもんな。……今だって疲労困憊で歩くのが辛いハズなのに、何も言ってこないし。
「なら離れるか、よいしょっと」
「ちょっ、お兄様いきなり何を!?」
「大人しく抱っこされてろ。さっきのお仕置きみたいなものだ」
本当に隠すのが上手い。疲れているのには気付いていたが、精神的に弱ってなかったらここまでのものだとは気付かなかっただろう。
仙術もどきはほんの短時間しか使ってなかったにも関わらず、この疲労具合は仙術の消耗の激しさがよくわかる。それと同時に気のエネルギーとしての質の高さも。
久遠が疲労を隠したがっているので、気付かないフリをし、お仕置きと称して遠を抱き上げ、刹那のいる方に背を向けて森を後にする。
「……ありがと、お兄様」
もっとも、久遠は俺が気付いていることに気付いているみたいだが。……まぁ、言わぬが花だ……お互いにな。