醜態
「とりあえずお兄様はここにいて。刹那もお兄様には見られたくないでしょうし」
久遠はそう言うと刹那の元へ走って行った。
……俺には見られたくないのか? でも見るなとは言わないのな。
「そうじゃないでしょう、刹那」
「久遠姉様? どうしてこちらに?
そうじゃないとはどういうことですか?」
「気を取り込むのに失敗しているのは、暴走を恐れているから、無意識に取り込むのを拒否しているの。だから気を集めるだけ集めて、ほとんど取り込めていないのよ。それはわかってる?」
刹那のところに着いた久遠は早速アドバイスを始める。
「はい、それはわかっています。ですから反復練習で、気を取り込む量を増やそうと……」
「だからそれが違うのよ。あなたは一度は気の取り入れに成功しているのだら、技術の問題じゃなくて、気の持ちようが問題なの。だから反復練習では意味がないわ」
制御を上手くするためならば反復練習は十分意味があるが、刹那の場合は発動すらできていない、それ以前の問題だ。
「ならどうすれば……」
「思いっきり気を取り込みなさい。徐々に増やしていくのではなく、逆に減らしていくの」
「それだと暴走してしまいます! あのような醜態を晒すのは……兄さまの迷惑になるのは嫌です!」
久遠のアドバイスに拒否反応を示す刹那。この様子では、確か俺には見られたくないようだ。
「甘えないの、刹那。醜態だの何だのを気にしていいのは一丁前の実力を持った者だけよ。
お兄様に対して恥じ入るならば、醜態を晒すことよりも、お兄様の役に立てないことにこそ恥じ入りなさい。
暴走していた時は迷惑はかけていても、役にも立っていたでしょう」
だが久遠はその訴えを切って捨てた。怒鳴るような大声ではなく、静かに、そして冷たく。
「ですがっ……」
「でも安心なさい。暴走しないように、体内の気の制御は私がしてあげるから。それで制御の感覚を覚えればいいわ」
「久遠姉様……」
「今は気を取り込むことだけを考えなさい」
しかし、その後に続く言葉は一転して温かみのある優しい言葉だった。