制御以前の問題
「……まぁ、仙術の応用方法がわかった、とでも思えばいいか」
「……そう考えた方が精神衛生的にはよさそうね。もちろん刹那には言っちゃダメよ」
「もちろんだ」
悪気がなくても傷つくだろう。
「でも、何で果樹園の方に移動したんだろうな?」
「ん~、パッと見た感じの予想だけど、この辺りの気は畑にある分以外はかなり薄くなったからじゃないかしら?」
「本当に畑に悪影響になるか」
これ以上続けると、畑に充満している気を使うことになるということっぽい。
「とりあえず行きましょうか。また別の場所に移動されたら面倒だわ」
「そうだな、山なんかに移動されたら厄介だし」
◇
「ん~、だめ……です」
果樹園に到着すると、探すまでもなく刹那の姿が見えた。仙術は獣型ではできないので、少女の姿だ。
声を聞く限り、練習の成果は芳しくないらしい。
「邪魔するのも悪いからしばらく見ているか」
「そうね。平原よりも森の方が自然が豊富だから、気に余裕はあるし」
「でも、どうして失敗ばかりしてるんだろうな?
暴走ならともかく、発動すらしてないぞ」
以前に使ったときは普通に使えてたハズなんだが。
「そうね……その暴走の所為じゃないかしら。正確には暴走を恐れているからね。
元々、暴走しないために制御訓練をしてるんだし」
「……ああ、暴走しないようにしている所為で、暴走の原因になってる気の取り入れが上手いことできないのか」
「そう、集めるだけ集めて、身体にはほとんど入ってないのよ。だから畑に溢れているの。
これは制御以前の問題ね」
「だよな」
仙術が発動しないことには制御なんてできるわけがない。
泳ぐ練習をしに来たのに、水着に着替えただけで、水に入るのを怖がっているようなものだろう。
「仕方ないわね、少し手伝って来るわ」
「手伝うって、お前は仙術なんて使えないだろ」
そんな刹那の姿焦れたのか、久遠が手伝うと言い出した。
「確かに仙術そのものはできないけど、その真似事なら可能よ。
錬丹術には体内に廻る力の流れを扱う、房中術の側面もあるの」
……思い返してみると、妙に仙術や気について詳しかったな。
生命力に特化した分野って言ってたけど、気もまた生命力になるってことかな。