殺生石
「さて、どこにいるのやら」
ポータルを使わなかったらしいから、この階層にいるのは確かだが……ここは森だから微妙に探しにくいんだよな。まぁ、山よりは遥かにマシなんだけど。
「ま、散歩がてらぼちぼち探すか」
最悪、腕輪で位置を調べればいいし。
「何を探すのかしら? 手伝うわよ、お兄様」
「……久遠か」
そう呟きながら歩いていると、背後から声が聞こえきた。……どうやら目的は達成したらしい。
「あ~うん、今探す必要がなくなった」
「あら。もしかして、探してたのって私?」
「ああ、そうだ」
何だろうね、この肩透かし感は。そら見つけようと思えばすぐに見つけられたし、久遠は悪くないんだけどさ……。
「用があるのなら、念話装置を使って呼びつけてくれればいいのに」
「呼びつけるほどの用でもなかったからな。たまにはダンジョン内を歩いて回った方がいいし」
「ふうん、それじゃあこのまま散歩がてら話を聞こうかしら」
「そうだな。ここは景色もいいから、散歩にはいい場所だし」
湖畔の景色は微妙な気分を払拭するのに丁度いいだろう。
「そういえば、久遠は何をしてたんだ? 百々眼鬼のところで細工物について話し合ってたのは聞いてるが」
「術の練習よ。あ、術と言っても狐火じゃなくて、幻惑魔法の方だから安心していいわ」
いきなり本題に入るのも味気ないので、歩きがてら雑談を始めた。
「それと殺生石の作成ね。作れないか試してたの」
……始めたのだが、何でソッコーで本題に入ってんだ?
「……殺生石ってどんな物なんだ? 一本踏鞴は魂系のアイテムって言ってたんだが」
「殺生石は錬金術──正確にはその一種の錬丹術で作り出す、魂の結晶よ。
何体もの生物捕食して魂を得て、それらを混ぜ合わせ練り上げて作り上げるの」
「作れたのか?」
あまり殺しはさせてないから魂の量が足りてない気がするんだが……。
「無理だったわ。溜め込んでいる魂が少ないし、技術も足りてないわね。
高位の妖狐じゃないと、無理なのかしらね」
俺の問いに久遠は首を横に振った。
魂の量と技術か……。久遠を優先的に出してみるか。
「ちなみに、殺生石ってどういう効果があるんだ?」
「私が使う分には命のストックね。これがあれば死を回避して、逃げおおせることができるのよ。
発動すると死体の変わりに抜け殻となった殺生石がその場に残されるから、よく死体や封印の媒体と勘違いされるわね。
武具の素材として使うとどうなるかはわからないわね。私にわかるのは正規の使い方の分だけよ」
まさに殺生石というわけか。復活が可能なダンジョンモンスターにはあまり優先度の高い物ではないが、名付きは条件があるから、いくつか持っていたいな。
武具の素材としても、複数の魂を使う分、河童の尻子玉より高位の物っぽいし。