放流
よし、放流しよう。
外に出すと問題が起きるだろうけど、うちに置いておくよりはマシだ。情報にはなかったが、こういう剣は得てして周囲の人間を魅了して墜とす性質があるし。
ぶっちゃけ、持ち主の狂騎士含めて関わりたくない。
「おい! 大丈夫か!?」
「ああ、丁度いい」
考えをまとめたところで、狂騎士の仲間の槍の男が駆け寄ってきた。
……お前、ついさっきまで隠れてたよな。狂騎士が六花に言い寄ったと同時にソッコーでそいつから逃げたよな。……まぁ、その気持ちはよくわかるが。今心配してるのも仲間意識からじゃなくて、そいつの実家に睨まれたくないからだろうし。
「そいつを持ってとっとと帰ってくれないか。出来れば二度と来ないで欲しい」
「あ、ああ、このまま帰してくれるなら願ってもないことだが……二度と来ないのは無理だ。なんせ必要のなかった捜索任務はいえ、《宝剣エルディオン》が見つかっちまったんだ、本国に報告しねぇと。
んで、報告しちまったら回収任務が下されっだろうからな。必要ではないが、有ったら有用なもんだよ、宝剣ってもんは。
それに、コイツがこんな様子だと、コイツの実家から確実に報復があるぞ」
……ほぼ自業自得なんだが…………まぁ、貴族なんて人種にはそんなことは関係ないか。
「虚偽報告で適当に誤魔化せよ」
「そりゃ無理ってもんだ。基本的に貴族じゃない、平民階級の奴の任務報告は、虚偽探知の術式のもとですることになってるからな」
……なんて無駄にめんどくさい仕様。しかも貴族未満限定とか、明らかに捏造を意図してんじゃねぇか。
……ん? 待てよ、社会構造上、貴族と平民では貴族の方が少ない。ということは、必然的に任務報告も平民が行うことが多いはずだ。貴族ってのは基本的に奥でふんぞり返っているもんだしな。
ということは、あまりコストのかかる術式は使用しないはずで、虚偽探知もあまり上等なものではない可能性が高い。
つまり……、
〈久遠、聞こえるか?〉
〈ええ、聞こえるわお兄様。何か近くに居るのに念話だなんて……内緒で頼みたいことがあるのね?〉
〈ああ、話が早くて助かる。幻覚を頼みたいんだが……今、どのくらい魔力が回復している?〉
幻覚に嵌めて、本人すら嘘だとわかっていない状態にすればいいんじゃないか? より贅沢を言うなら、記憶を弄れれば最高だ。
ただ問題は幻覚を使える久遠の魔力。さっきまで狂騎士を幻覚嵌めにしていた上に、魔力どころか体力まで消耗したのでできない可能性が高い。
〈そうね……、こんな事ができるくらいかし……ら!〉
「クォン!」
「……ぐがっ!?」
「キャッ!?」
ドサッ!
魔力の回復具合を確認してみると、念話の末尾と同じタイミングで久遠が一鳴きすると一拍おいて、槍の男と魔法騎士の女が倒れる。
〈ま、油断だらけの相手に、不意討ちでショックを与えて気絶させる程度ね。で、彼らの記憶を弄れればいいのかしら?〉
〈ああ、できるか? と言うか、よくわかったな〉
〈会話の流れと、お兄様の思考から類推しただけよ。 でも、今のでまたほとんど使い切ったから少し待たないとダメね。まあ、今のをやらなくても無理だったけどね〉
考えを読まれてるのか……まぁ、久遠ならいいか。考えを読んだ上でフォローしてくれてるし、それが無理なら時間稼ぎをしてくれてるからな。
六花は謎の直感力で蒼魔の考えを読みますが、久遠は思考計算で読みます