呪宝剣
「なんてことを……」
「洗脳なんて、主さまがするわけないのです!」
「くっ、ここまで深く洗脳されているのか!?」
ここまでってどこまでだよ? 初対面の奴がどうやって洗脳前後を見分けられるんだか……。
ちなみに六花、俺が洗脳なんてするわけないと言っているが、場合によってはするぞ。勿論、六花たちにするつもりはないがな。
……はぁ、間違いなく六花に悪影響だから仕止め…………止めるか。
「洗脳は帰ってからゆっくり解くとして……」
「だから、洗脳なんてされていないのです!」
「大丈夫、君はまだ自覚ができていないだけだから。ぼくの愛できっと……いや、絶対に解いてあげるから」
「うぇ……」
騎士が吐き気を催すことを言った途端、同じ気分になったのか事態を静観していた魔法騎士の女が口元を押さえながら岩影へと走って行った。
あの様子だと結構前から我慢してたっぽいな。
「とりあえず今は君とあいつの契約だけ解いておこう」
そんな様子を眺めていると、とち狂った騎士はさらに寝言をほざき続ける。
「なっ、そんなこと……」
「できないと思うかい? まぁぼく自身には無理だけどね。この《宝剣・エルディオン》あらゆる物を断つちからがあるんだよ。それは目に見えないもの、実体のないもの……例えば契約なんかでもね」
六花がそんなことできるわけがないと言いかけたが、狂騎士はそれを遮って凶骨の剣に手を伸ばしながらその能力を解説する。
俺と六花は契約なんて結んでない。あいつの勘違いと言うか、思い込みだが…………ダンジョンマスターとモンスターの関係もある種の契約だとするとまずいな。
「なっ!?」
「待て!」
六花の反応を見る限り正確っぽい。
だから、そんなことはさせまいと妖刀を構え、《魔人化:ぬらりひょん》を発動──
「大丈夫、ぼくに身を委ねて……ぐぁぁぁぁぁぁぁ!?」
して狂騎士に斬りかかろうとしたが間に合わず、奴が凶骨の剣に触れた。その瞬間、凶骨の剣から黒い靄のようなものが噴出して狂騎士に絡み付く。その靄に触れていると激痛が走るのか、狂騎士はのたうち回りながら絶叫する。
「なっ、これはどういうことだぁ!?」
「何がだ!?」
魔法騎士と同じく事態を静観していた槍の男は突如発生した事態に疑問の声をあげる。
「あいつはあれでも《宝剣》に認められた存在だ。《宝剣》に認められた存在は他の《宝剣》に拒絶されることはあり得ねぇんだよ!」
《宝剣》ってのは意思のある剣か…………妖刀と大差なくね? うちの妖刀はどういうわけか意思薄弱だけどさ。
つーか、狂騎士を認めるとかずいぶん趣味の悪い《宝剣》だな……。
でも少し気になるな……。ちょっと見てみるか。
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呪宝剣エルディオン
宝剣エルディオンが持ち主の未練によって呪われた姿。
宝剣本来の性質からは変質している。
主以外に使われることは望まず、主の未練に関わる者へは呪いを放つ。
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…………大変なことになってないか?
《髑立毒歩》
狂騎士の称号の一つ。
独立独歩の悪い部分を凝縮したような性格の持ち主に顕れる称号。
漢字としての意味は『毒を撒き散らし、立っている場所には常に被害者がいる』といった意味合い。
信じる事を行う限り決して折れない心を得、全能力が上昇する効果がある。発動コストは周囲の不幸。
スキル《穽偽の心》
己が正義を貫く限り、それによる犠牲は犠牲と認識されにくくなる。(自分にも有効)
この2つはそれぞれ《独立独歩》と《正義の心》に擬態しているので本人はこれらを知りません。