ロックオン
「君には人の心がないのか!?」
騎士の男は六花から俺に視線を移し、睨み付けながら非難してくる。
はて? 何で奴隷が非難されるんだ?
文車妖妃からの情報だと、この辺では普通に奴隷制ありだったはずだが……。誉められたことではないのはわかるが、そこまで非難される筋合いもない。
まぁ、六花は奴隷じゃないけどな。
「なっ、主さまを侮辱しないでください! わたしはいやしくも主さまの妹を名乗ることを許された身、決して奴隷ではないのです!」
「くっ、主であることを理由に、こんないたいけな娘に妹であることを強要しているのか……」
「いや、強要してねえし」
六花は奴隷扱いされたことが大いに不満らしく、嫌悪感を隠そうともせずに否定するが、それを聞いた騎士は妙な寝言をほざき出した。
かなり人聞きが悪い言いがかりだな。ちゃんと六花の許可を得て……って言うか『妹になる』のはどっちかって言うと六花の希望だし。
「君のような可憐な娘がそんな男の元に居るもんじゃない。こっちに来るんだ!」
ん?
「嫌です。主さまの元を離れるなんてあり得ません!」
「なぜ断るんだ!? ……その男のを気にしているのか。大丈夫だ、そいつが君に何をしようとも……何があっても絶対に君を守ってあげるから!」
ふむ。
「主さまの元を離れるのは当然ですが、あなたの元に行くのなんて絶対に嫌です!」
「な、何を言っているんだ! 『彼女』といい、この娘といいどうしてぼくの言うことを聞いてくれないんだ……」
……もしかして、こいつ──
「……はっ、まさか洗脳されているのか!?」
──六花に惚れてないか?
正直、何がどうなって洗脳なんて答えに行き着いたのかわからんが、そんな極端な答えに行き着いたってことは、それだけ六花に対する感情が強いのだろう。それに言葉の端々にそれっぽい感情が見え隠れしてるし。
と言うことは、さっきこいつが口走った『彼女』っていうのは凶骨の元の聖騎士の婚約者だった姫のことかな。
うん、四六時中こいつに纏わり付かれて──いや、憑かれていたならノイローゼになるのもわかるな。
会話が成立しているようでしてないし、自分に都合のいい解釈が多すぎる。端で聞いているだけでも頭が痛くなってくるほどに。
だぶん、騎士のステータスは精神(MIN)の数値が無駄にずば抜けて高いんだろうなぁ……。