グレーゾーン
ツグミが着地し、その上に乗る六花が地面に降り立つ。
果たして今までここまで六花に恐怖したことがあっただろうか?
「む、無理なんてしてないぞ?」
ちょっと撃たれたりしたくらい…………あれ? 今回は意外とお説教される要因がすくない?
別に興味本意で出歩いたわけじゃないし、護衛役はそこそこ居た。白とまでは言わんがグレーゾーンくらいじゃないか? 少なくとも、俺からは無理をしてないよな。
「それならわたしの顔を見て、自信を持って言ってください!」
「いや、本当に無理はしてないんだ」
だが、完全に無理をしてないとは言い切れない後ろめたさから、つい目を逸らしていまい、厳しくツッコまれる。
「じゃあ、わたしの眼をじっと見てください」
「あ、ああ」
今回に関しては疚しくないと言えなくもないので六花の眼をじっと覗きこむ。
こう改めて見ると六花って綺麗だよな。まだ幼いからわかりにくいが、顔立ちは可愛い系と言うよりは綺麗系。雪女ってのは美形な種族なんかね。
蒼い瞳に黒い髪、うっすら赤らんだ頬がなかなかいい感じ。…………ん? うっすら赤らんだ?
六花は雪女系種族だけあって、肌は雪を思わせるような白だったはずだが……。火山活動が停止して、多少気温が下がったとはいえ六花に火山はキツいか。
「も、もういいのです、わかりましたから!」
「あ、ああ」
思考が横に逸れている間に納得できたのか、六花の方から眼を逸らしてもういいと言われる。
ごまか……納得してもらえたのか?
〈パァパ、そろそろ……げんかい……〉
「あ、おい……」
「どうしたのです……きゃっ!?」
だが、そうしている間に水奈が限界を迎え、眩い光とともに水妖刀が解けてしまう。水妖刀から元の姿に戻った水奈はかなり消耗しているらしく、ぐったりしている。
「……ヴォ……ォ……」
その結果、熔岩操作も解けてしまい、凝固が不完全な熔岩玉が蠢き出す。
「六花、すぐにあの塊を冷やすことが出来るか!?」
「え、あ、はい、やってみます」
早く固めないと今にも凶骨が抜け出しそうなので、すぐさま六花に冷やすよう指示。すると六花は自信無さげな様子ではあるものの、半ば固まった熔岩に近付いて手をかざして冷気を放出する。
六花が来てくれていて助かったな。
「う、これは……難……しいの、です」
「え?」
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、すぐに六花から無理っぽそうな声を出す。
「少し、熱が高……過ぎるのです。熱に冷気を……ぶつけて冷やすのは…………それに内側から、抵抗もあるの、です」
「何とかならないか?」
「ちょっと、厳しいのです。せめて、ここが火山でなかったの、なら……」
くっ、気温が下がったとはいえ火山は火山、六花は満足にちからを発揮できないのか。
「……うん、なら……あたしも……」ジュッ
六花が苦戦している状況を見かねたのか、水奈がぐったりとしていた身体を起こしながら水弾を熔岩玉に向かって放つも、まさしく焼け石に水。ほとんど意味をなさない。
「あ、ありがとう、水奈ちゃん。少しだけど、熱が逃げたわ」
しかし、六花は水奈を落ち込ませないよう礼を言って、無理をして冷気をさらに放出する。