キャッチアンドパス
「ちょっと、まだ……なの?」
「おうっ、時間稼ぎはもういいぜっ!」
槍の男を説得し、火山の妖怪たちと水奈、そして一角天馬に指示を出して配置に着かせたところで、魔法騎士の女が残り魔力が危うくなったのか、辛そうな声でまだ策が思い付かないのか聞いてきた。
「アーサーをこっちに……おもいっきり放り投げてくれっ!」
「はぁっ!? あんた何言ってんの!?」
その声に対して槍の男は作戦通り、騎士を放り投げるように指示を出すが、魔法騎士の女は先ほどの槍の男と同じく反発する。
まぁ、守るべき人間を放り投げろなんて言われたら当然の反応か。
ちなみに俺はおもいきり放り投げろとは言ってない。おもいきりと付け足したのは槍の男の独断だ。…………私怨かな?
「言いたいこたぁわかるが、とりあえず投げろ! 骨がもう来てんぞ!」
「ああっもう、あんたの指示だかんね、何が合っても責任もたないし、報酬はちゃんと払ってもらうわ、よっ!」
その正気とは思えない指示に魔法騎士の女は渋々従い、予防線を張りながらも騎士をこっちに投げ捨てる。
「おい、ちゃんと掴まえろよ」
今回の作戦は単純で、騎士の男を朧車に乗せて凶骨からとにかく逃げるだけだ。
反対された理由は最初に距離を稼ぐために騎士の男を投げさせ、そして俺が受け止めるのだが、飛んでくる人間を受け止めたことなんてないから失敗するかもと言ったからだ。
「ああ、わかってる…………いくぞ、水奈!」
〈……うん、パァパ〉
とは言え、水奈の協力があれば難しくはない。
水奈は事前に伝えていた通り、水妖刀を鞭の形に変える。水妖刀は水奈が宿っているだけあって本質は水だから自由自在に形を変えられるし、水奈の意思で操る事が可能なのだ。
〈……ん!〉
「よしっ!」
鞭になった水妖刀で飛んで来た騎士の男をキャッチ、
〈……それっ〉
「ほいっと」
「うぉい!?」
そして流れるように離れた位置にいる朧車の方へ再度投げる。
…………ツッコミがあったのは、槍の男に伝えていた作戦では俺がキャッチした後は隣で待機させている朧車に乗せるはずだったからだ。
「キィー」
「ヴォン」
「ヴォォォォォ」
騎士を受け取った朧車とそのコンビの小鬼は、そんな声などお構い無しに騎士にロープをくくりつけ、引き摺りながら走り出し、凶骨はそれを追いかける。
「てめぇ、作戦と違うじゃねぇか!
なんで横にいるそいつじゃなくて、あっちにまた投げやがった!?」
「思いの外、骨の動きが速くてな、このままこっちで受け止めるよりはもう少し距離を離した方がいいと判断したから。…………だいたい貴様が作戦にどうこう言えんだろうが。誰がおもいっきり投げろと言った?」
「くっ……」
当然、伝えられた作戦と違うことをされた槍の男は怒鳴ってくるが、先に違うことを指示した点をついて黙らせる。ちなみに速かった云々は嘘だ。
「なら、何でロープで引き摺りやがる? 乗せる予定だったろぉが」
「…………それについてはあいつらが拒否したからだ」
朧車と小鬼が騎士を乗せるのを嫌がったんだよなぁ……。まぁ気持ちはわかるが。ロープは最後に使う予定で用意してたから、ちょうどよかったわ。おかげで西部劇の見せしめの処刑みたいになってるけど。