イケメンのサッカー部率が高いことに前から気付いていた
「おーい、京典。こっちだ」
「悪い、声しか聞こえない。どっちだ」
「3歩前……、あ、そこで左に半歩、よし、ゆっくり前に――」
「ってすいか割りかよ!」
踵を返しながら後ろに向かって叫ぶ。
面白そうに笑いを堪えるように勇太がグラウンドにうずくまっていた。肩がぷるぷる震えている。近くの木陰では爽やかな笑みを浮かべる雅人が腰を下ろしていた。
雅人は許す。イケメンだから。
「おっす、お疲れ」
勇太をなるべく視界から外すようにしながら雅人に声を掛ける。勇太の砂を蹴って走ってくる音がする。
「おう、お疲れ」
「お疲れぇ~い!」
勇太には言ってない。
「テストどうだった?」
いつものように、雅人が話を切り出す。
「えー、雅人はどうせ余裕だろ?」
「当たり前だろ、お前とは違って頭も良いんだから」
「おまっ、京典! 体育の成績はいつも俺に負けてたろうが!」
「足だけは俺の方が速いけどな」
「んなっ! 小さいくせに生意気だぞお前!」
こいつ、気にしてることを言うか!
「殴るぞ!」
「そんな細い腕でか?」
「教科書の角で!」
「反則だぞ!」
睨み合う俺達を雅人がなだめたおかげで勇太は命拾いした。
軽く言葉を交わしてから、校門の外へ歩き出す。今日の出来事を報告しあう時間だ。
「俺からいいか?」
校門を出て2本目の電柱を過ぎたあたりで俺は手を挙げる。
「お前が女の子だったら可愛いのに」
「妹やるよ、妹」
「やめろ、お前をお義兄さんとは呼びたくない」
堪えきれず、吹き出してしまう。
「ぷはっ! くくっ、気持ち悪っ!」
「お前が言うか!」
「まあまあ。で、京典、今日の出来事は?」
「ん、ああ。屋上で寝てたらまたいつもの先輩に捕まって、入部寸前まで追い詰められた」
「ああ、演劇部の唐木先輩か」
「そうそう」
「入ったのか?」
そう言う勇太は入ったら面白そうだなー、という考えが顔にもろに出ている。
「5回勝負の賭けじゃんけんして、ストレート負けした」
「ああー、お前じゃんけん弱いもんな」
「運はいいけどな。矛盾してる気がするけど」
たははと雅人が笑う。
「で、入部したのか?」
「なんかじゃんけんするってことは入部する意思があるってことらしいんで、掛け持ち扱いの部員にしてもらった」
「演劇部と掛け持ち? 帰宅部をか?」
「そうそう」
「なら、サッカー部入れよ」
思わぬ誘いを受けた。いや、これが勇太からの誘いなら即刻突っ撥ねるのだが、しかし雅人ともなると……。
イケメンの着替えをタダで見れるだと――? 落ちつけ俺。
「うーん、でも、竹刀振ってる方が性に合ってるって言うか、剣道の方が楽しいって言うか。サッカーは遊びでやる分には楽しいけど、本格的な試合となると、こう……」
「遊びが高レベルすぎるだろ帰宅部」
「いてっ!」
叩かれた頭を押さえながら勇太を睨む。
「バナナシュートとかお遊びでしょ」
「あほ、俺でもできねえわ」
「それは勇太が――ったい!」
今日がテスト日でよかった……。授業日で教科書がもっと多かったら確実に今ので背が縮んでた。お返しに脛を思いっきり蹴飛ばす。ふんっ!
「ま、京典が入りたくないって言うならいいんじゃないか? 俺としては残念なんだけどな」
「悪い……」
「いいっていいって。ただ、時々練習に参加してみるのはどうだ? 一応コーチや部長とは話をつけてあるんだ。『上手いやつがいるから、一緒にやらせてみたい』、ってな」
雅人は悪戯っぽく笑う。美味いやつ……? 俺美味くないよ? 肉なんてあるとしたら筋肉で歯ごたえ最悪だよ? そういうことではない。
視線を逸らしながら、頷いてみる。逸らした先に勇太が蹲っている(置いて行かれている)のが見えたが、割愛。
「たまにでいいなら、行く、……行ってもいい、かな?」
「ああ、暇な時でいいよ」
「そうする」
暇な時って……毎日来いってことか?
剣道部に入部しようかな……。
今日の練習の10分試合で2本シュート入れたという雅人の素晴らしい報告と、あと、勇太のなんだか覚えてないけど、まあ覚えてないからどうでもいい報告だと思うものを聞いたところで2人と別れ、俺は自宅へ続く道を辿った。
家に帰ったらゲームしよう。