『地獄』の前の夜
ブギウギの息抜きと思ってください。
ちょっと投稿形式を変えているのでご注意を。
入学式も終え、高校最初のHRも終え、午前中で帰宅となったが中学校来の友人たちと教室にいつまでも残りながら談笑し、見回りの先生に見つかり追い出され、だけど、それでも楽しかった。
高校生になって良かったと。心からそう思えた。
そう思えた、入学式の放課後……。
「はあ……」
いや、別に異世界に転生したわけでも、怪しい黒づくめの男たちに誘拐されたわけでも、宇宙人にキャトルミューティレーションされて脳内を弄繰り回されて裏社会の一員になってしまったわけでもなく、しかしいっそさらわれたい。
向かい合う形で食卓に座る、双子の妹をチラリとみて呟く。
「宇宙人とか攻めてこないかな……」
「わかるー、テストとか超憂鬱」
「あーあ、ゲームしちゃおっかな」
「ゲームならママがしてるよ」
「くっそ、先手を打たれたか……!」
悔しかったらテストで良い点とりやがれとでも言うのだろう。仕事しろ!
頭を真っ白にして日本史の範囲を頭に放り込んでいると、兄貴が仕事から帰ってきた。
「ただいまー」
「あれ、お犬騒動って誰だっけ」
「何だよお犬騒動って。お家騒動じゃないんだから。何、犬将軍?」
「そうそう、えっと、家……?」
「えっと、五代将軍の……?」
「綱吉じゃなかったか?」
ゆるりとネクタイを外しながら兄貴がリビングに現れる。今年から社会人になった兄貴にはまだ不慣れな世界なようで、草臥れた様子が服の各所から見受けられる。こりゃ、また上司に嫌味を言われたな。頭も顔もいいからなー、羨ましい限りだ。早く結婚して婿入りしてほしい。
「綱吉ね、よし、つ、な、よし、っと」
「おいおい、それぐらいわかれよ」
「うるさいっ」
兄貴はひとしきり俺達を馬鹿にすると着替えるために自室へと向かう。階段踏み外さないかな。
「あ、宿題プリントに名前書いてないし」
「マジかよ。って俺もじゃねーかよ」
「あれ、今笑ったよね? 笑ったくせに自分も書いてなかったよね?」
「お前も書いてねえだろ」
「うぐっ……」
友香を黙らせ、日本史のプリントに自分の名前を書く。1年7組3番、和泉、京典っと。きょうすけっていうかきょうてんって読むよな、これ。誰だ? こんな名前名付けたのは。呪うつもりで母親がいるであろう2階の友香の部屋あたりを睨む。
「ん? おい、鏡国って何だよ。アリスかよ」
「アリス? 何言ってんの? 鎖国だし」
「鏡じゃねーかよ、よく見ろ」
「あ」
中間テストが明日から始まると言うのに、大丈夫なのだろうか。
ああ、テストが始まったら終わるのは一瞬なのに、何故テストが始まる前はこんなに長いのだろうか。勉強できるからいいけど、勉強したくない。
「鎖国始めたのは誰だ?」
「家康の孫の、家光!」
「俺達の親父の名前は?」
「えっ、ええ!?」
「陽人だよ、は、る、と。覚えとけ」
「覚えてるし! 京典の質問がとっぴょーしもなかっただけだし!」
「いや、答えられるだろ」
その後、欠伸交じりに階段を降りてきた兄貴に同じ質問をすると、当然の様に即答してみせてくれた。