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2014.02.24 細かい文章表現を訂正しています。

澄んだ青い空の下、若く活気のある声が響く。

広大なグラウンドではバスケットゴールが均等に配置されており、進学コース2クラスが男女合同で体育の授業を行っている。

今日はこの春一番の暖かさで、唯一長袖のジャージを上下共に着用しているまどかは密かに浮いていた。

まどかにはまだ気軽に話せるような友人がいないので暑くないのかという指摘はされない為、安堵している次第だ。

実際のところ半袖になっても寒くなんてないのだが、一番の問題点は、隠しきれない肌つやの差が露呈してしまうことだ。

もう10代の代謝とは違う。

しかし、夏が近づけば観念せざるをえないので、今の時期からエステにでもいこうかと真剣に考えている。

「西上さん、暑くないの?」

名越がいつの間にかそばにいて、ボールを片手で抱えてさわやかに微笑んでいた。

まどかは一瞬にらみつけそうになるのをこらえた。

名越は他の男子と同様に半袖シャツとハーフパンツ姿で、制服の時には分かりにくい身体のラインや部位が露になっているので、まどかは目のやり場に意識してしまった。

意外と胸板が厚めだが決してごつくはなく、全体的に程良く引き締まっていて、ついでにフェロモンと呼ばれるものも出ているような気がする。

高校生なんてまだまだ幼いと決めつけていた節があったけれど、こうして間近で見てみると身体はもう大人と変わらない。

しかし、数か月前まで慣れ親しんでいた男の中年特有の"たるみ"はない。

中年―。

まどかが矢野葉子として会社で働き、そして恋い焦がれて必死だったあの時期は、相手に対して中年だたるみだなんていう不満は全くなかった。

ただただ夢中でその背を追っていたから。

「うん、大丈夫暑くないから。そうだ、名越君はバスケ得意?」

まどかは、膨大な雑念を振り払うかのように話を転換させた。

「バスケは微妙。」

「えっ?微妙?」

「そんなに驚く事かよ。」

「いやあ、得意そうな感じだから。」

こういう絵になりそうな男子はだいたい勉強をやらせても運動をやらせても良くできてしまうイメージがある。

ところがそんなまどかの発言に、名越は少し気分を害したようで、ふてくされた態度でたずねてきた。

「ふーん俺、何でもできそう?」

「何でも、とは言ってないけど。イイ体してるからスポーツ得意かなって。」

瞬間、周りの視線が一気に集まった。

その中には特に女子の、汚れを見るような感情がある。

「えっ!?もう…。あのね、イイ体っていうのは筋肉とか骨の話だよ!例えば大胸筋とか上腕二頭筋!だらだら暮らしてたらこうはならないでしょ?」

こういう多感な世代はいろいろな言葉を軽く受け流せないものなのか、と思いながらまどかは慌てて弁解した。

「ぶはっ!西上さん筋肉マニア?」

名越も名越でどうでもいいところにくいついてきた。

「違う違う。いま私が昼間から良からぬ発言した人みたいになってるからね。説明しただけ。」

「昼間から良からぬ?へぇどういう意味?」

名越の目がキラキラしている。

男子は年齢問わず下ネタになると活き活きするんだなあとまどかが呆れていたところで、体育先生の指示が飛んできた。

二人一組でパスの練習をするらしい。

生徒達はそれぞれ友達同士でペアを組んでグラウンドへ散らばっていく。

女子の人数はどうやら奇数らしく、友達のいないまどかはひとり残された。

「名越、やろうぜ。」

そこへ名越に話しかける男子の声が近づいてきた。

「ああ佐々木、悪いけど俺は西上さんと組むからさ、どっか入れてもらってくれ。」

佐々木と呼ばれた男子はぴたりと足を止めた。

「え?名越君?」

まどかは慌てて会話に割り込んだ。

「ちょっ、私は適当にやってるから気にしないで?」

「な?頼むぜ佐々木。」

名越はまどかの方を見ようとせず体ごと佐々木の方を向いて話をすすめるので、その表情は分からない。

佐々木は名越の顔を見て何かを悟ったようにあっさり承諾し、そこら辺のペアに混じろうと走って行った。

「名越君、なんでまた…。」

「俺は生徒会長だからな。編入生には優しく!」

まどかの方に振り返り名越はそう言って、正義感をアピールしているようだ。

名越と二人でバスケのパス練習をする女子なんてVIP級の待遇ではないだろうか。

これでますますまどかとクラスの女子達との距離が広がる事態になるのを、名越は気づいているのかいないのか。

この件はあの早乙女にもすぐ伝わるような気がする。

パス練習を開始する合図があると、女子達の注目から解放された。

名越はバスケは微妙だと言っていたわりには、アイコンタクトを交えながら、まどかがうまく受け取れるようなパスを繰り出した。

まどかの放ったボールの軌道が大きくずれるとクスリと笑い合った。

まどかのパスが力足らずで何度もワンバウンドすれば、名越がふざけて大きく前に出て至近距離で投げてくるので、まどかは必死になる。

すると名越は真面目すぎ!と肩をゆらして笑った。

高校生の体育の授業はこんなに楽しかっただろうか。

だんだん長袖のジャージがじっとりとしてきたので、肌つやなんて気にせず脱いでしまっても良かったかもしれない。

まどかがそう思った頃にチャイムが鳴った。

「西上さん明日腕が筋肉痛になるぞ。」

「そうだね~。これじゃ予習や復習ができないわ。」

「うわ、そんなんじゃ持たないな。夏までに普通クラス落ちが目に見えてるぞ。」

「はあああ。がんばります。」

楽しげに会話して歩くまどかと名越を、どこからか恨めしそうに見る目がある。

仕方がない事だと、まどかは割り切るしかなかった。

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