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2014.02.24 細かい文章表現を訂正しています。
まどかはそのまま平静を装い頭を振りながら笑った。
「どこって、屋上までだよ?ふはは、名越君とは特にどこにも出かけた事はないなぁ。」
途端に希美は膨れ面をしてドリンクをストローでかき混ぜ始めた。
「どこまでっていうのはそういう意味じゃないって。分かってんでしょお!?」
「あれ?希美、それコーラ。そんなに混ぜ混ぜしたら炭酸ぬけるよ。」
「いいの!炭酸がぬけかけた時が飲み頃なのよー!って話そらすな!彼とはただのお友達とか言わせないからね!」
コーラを脇に置き身を乗り出してくる希美にまどかは困り顔で応じる。
「うーん…。」
「おっ?話す気になった??」
「うーん…どう説明したらそのただのお友達であることを理解してくれるのかなあって。」
「っはああ!?んなわけないでしょ!あー!舞も連れて来れたらなあ!!」
まどかは話題をそらせる格好のワードに飛びついた。
「舞。本当に調子悪そうだった。ちゃんと病院行ったのかな?」
「あれだけ悪きゃ行くに決まってんでしょ。舞みたいなああいうほんわかした子が相手だと、まどかも本音をポロッと言っちゃうかもね~。あー今ここにいてくれたらなあ!」
「で、舞の生理痛って毎回ああなの?」
「うん。重いタイプだけど薬飲めば結構楽になるみたいで、いつもは登校できない程じゃないんだ。今朝は飲んだのか聞いてみたら、飲み忘れたって。それからはもう放っておいてってさ。」
「薬を飲み忘れたんだ。いつも温厚な舞がそんな風になるなんて余程辛いんだろうな。」
「うん、うん、あのさ、この話、昼休みにしたよね。優しい希美ちゃんが合わせてあげるのはここまで。さあ本題に戻るよー!」
まどかはたった今開けたシロップを少しこぼしてしまった。
「ちょっと待ってよ!本題がこれでしょ!希美だって今日めちゃくちゃ心配して顔真っ青だったじゃん。舞とは付き合い長いんだろうし。」
「まあね。進学クラスの中で、中学校から一緒の子は舞だけだし。ただ、話し始めたのは今の学園に入ってからなんだ。」
「え!そうなんだ…。」
希美は校則をかいくぐるかのような濃い茶色に染めた髪を触り、高くひとつにまとめたお団子を直した。
「力になりたいけど、放っといてって言われたら、あれこれ近寄ってもお互いしんどいじゃん。」
まどかはこれ以上舞の話を続けられるような引き出しを持ち合わせてはいなかった。
思えば、まどかには他に出せる話題がない。
自分の話に制限がかかるため色々と積極的に話ができず、こうして誰かと放課後共に過ごす事も少しリスクを伴うのだ。
まどかもふたつにまとめた髪をいじるふりをして、サッと周囲を見渡す。
幸い今も自分の知る顔は見当たらないようだ。
ひと息ついたまどかは手鏡を取り出し、眉にかからない長さの前髪を直し始める。
そんなまどかに希美がしびれを切らした。
「で!?」
「…」
「そんな眉毛より短い前髪なんて直しようがないでしょーが!どうでもいいから今!」
「…」
手鏡をテーブルに置き、まどかはミルクティーを飲みながら顔ごと希美の視線から逃れた。
「あのねえまどかちゃん。知らない?名越君てね、女子の友達がいないの。一時はいるんだけど、ある日を境に男女の関係になっちゃうらしいからね。」
「あー…。そうだろうね。」
「だからよ!近々まどかもそうなる!!」
力説する希美に、まどかは内心ドキッとした。
希美は追い討ちをかけるように続ける。
「今朝まどかが来る前にね名越君が高らかに宣言してたんだよ。"西上に何か言いたい事があるなら今俺に言え。言いたい事がないなら、西上に不快な態度を見せるな!クラスメートとして自然に振舞えー"って。名越君って怒ると言葉荒くなるからちょっと緊張しちゃったわ。」
「へ、へえ~…。そりゃ格段のお気遣いをいただいて…」
「もう!信じてないでしょ。本当よ!?そこまで好かれた女子は今までいなかったと思うよ!」
まどかが一連の騒動に巻き込まれたのは名越の女性問題が根底にあり、名越はその責任を感じて配慮したまでである。
「希美、良いように偏って見すぎよ。私と名越君は、希美の頭の中での関係とは違うから。本当に友達だから。」
「ああ!そこ!そういうところも今までの女とはレベルが違うのよね。名越君も頑張っちゃうわけだ!」
「…私のそういうところって?今までの女子とどう違うっていうのよ?」
「いくら押しても倒れない難攻不落っぷり?さらに大人っぽくて一歩引いた感じが高嶺の花だと思わせるの。」
一体誰の話なんだか、そう尻込みしていたまどかは、とある事を思い出したので一転して笑い飛ばした。
「なにそれ。ふふ、私、教室で和田君につかみかかって行ったじゃない。プロフなんかに振り回されて幼稚にもぎゃあぎゃあ取り乱してたよ?」
「あ、それ付け加えるの忘れてたわ!えーと、陰湿な嫌がらせにも毅然と真っ向から立ち向かう大胆不敵さ!」
「…。希美って、ものすごーく私の事を前向きにとらえてるんだね。」
「名越君はもっと前向きだと思うわ。恋は盲目っていうしね!もう周りからみたらまどかに夢中で夢中でどうしていいかわかんないって感じでさー!あの名越君がよ!?もう学園じゅうの生徒がハラハラドキドキしてんだからね!裏でまどかがいつおちるかで賭けてる子たちもいるんだよ~」
これはあくまで希美の主観であり、名越の気持ちは本人からハッキリと聞いたわけではないのでここは軽く流せば良い場面である。
けれど、恋を自覚してしまった以上、心の奥には想い人も自分を好きになってくれたらという当たり前の願望が存在する。
この心を凍らせられたらいいのに。
まどかは今度こそ黙りこくってしまった。
自分の気持ちに白をきりつづけるまどかに気づいているのか、希美は店を出て帰り道別れるまで、辛抱強く問い続けるのであった。
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