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2014.02.24 細かい文章表現を訂正しています。

名越は凄みをきかせた声でその場を威嚇した。

まどかはこの状況に脳の回転が追い付いてこれずに固まっている。

なぜなら後ろから抱きしめられているので肩や背中に名越の体温を、殴られた左頬に名越の吐息を感じてしまうからだ。

「じょっ…条治!!どうして!?」

まず動いたのは早乙女だった。

早乙女はまどかを引きはがそうとするも、名越がまどかを抱きしめたまま背を向けたのでそれは叶わなかった。

「どうして!!そんな女どうしてよ!?条治目を覚ましてよ!!」

早乙女は力なくその場に崩れ落ち、女子達に支えられながら泣き叫んだ。

「目を覚ますのはお前の方だろ。お前は俺の本質を見ずに、俺っていう"彼氏"との"恋愛"に執着してるだけなんじゃないか?」

名越はまどかを守るように背中に隠したまま器用にも早乙女に向き直る。

「前にも言ったけど俺はお前の事ちゃんと考えてなかった。悪いけど惰性でつきあってた。ただ…まっすぐ純粋に俺だけ見てくれてたのは…嬉しかった、けどさ。」

語尾にやや照れくささを残したものの、名越は早乙女から少しも目をそらさず揺るぎない意志を示した。

早乙女は名越のその真摯な眼差しを受けながら何も言えないでいる。

そしてその場に座り込んだままゆっくりと息を吐いた。

「…。…ねえ、西上さん。」

まどかはこの状況に場違いな気がしてならないのでずっと気配を消していたのだが、早乙女の呼びかけで我にかえる。

顔を上げても名越の背中しか見えないので身動きをとろうとしたら、体の拘束が強くなった。

「名越君、離して。」

「西上、俺と早乙女の問題なのに殴られたんだ。出てこなくて大丈夫だ。」

まどかはこの場に遠慮して控えめな声で訴えたのだが、それが名越には不安とか恐怖の類だと受け取られたようだった。

「早乙女。西上はお前が勘違いしてるような奴じゃないんだ。」

表情を変えない早乙女の周りで、女子生徒達が声を出さずに表情やしぐさで異を唱えている。

「こいつは変わった奴で、達観したところがあるくせに成績はギリギリでさ。俺のことなんて何とも思ってない変な女子なんだ。」

女子であるならば名越に恋して当然かのような言い方に、多少自惚れも見えるが、これはまどかが御曹司である等のステータスになびかない事も指しているのだろう。

そんな名越の表情に、女子生徒達の目つきが信じられないものを見たような類のものに変わった。

まどかは誰に何と言えばいいのか分からなかった。

たとえ名越と早乙女の問題であっても、突如現れた西上まどかという異端の存在が二人の行く末を断絶させたのだ。

それに思い至るともはや左頬の痛みなど何でもないことだ。

まどかは固唾をのんで見守ることにした。

俯くと名越の人影がぼんやりと浮かび上がり、辺りが段々明るくなってきた。

重たげな雲の切れ間から光がさしており、遠くの方にはほのかに夕焼け空が見える。

静けさを保っていた屋上であったが、最初に口を開いたのは早乙女だった。

「今の条治を見て、西上さんに偽りがなかった事くらいは分かったわ。むしろ私を欺いていたのは条…、名越君の方だったなんてね。さっきの…あなたが本音を語るときってそういう顔をするのね。初めて見ましたわ。」

早乙女にいつもの口調が戻ってくると、これまたいつものように顎をツンと上げて立ち上がる。

「ばかばかしくなってきましたわ。いきなり入ってきた女にあなたはこんなにも変わってしまって。違うわ。変わったんじゃないわ…なんだったのかしらね。私は多くの時間と労力を無駄にしましたのね。」

時間と労力の無駄ー。

その言葉に、まどかはハッとして顔を上げると、素早く歩を進めた早乙女がすでにまどかの横を通り過ぎようとしている。

早乙女は前を見たまままどかへ吐き捨てるように告げた。

「けれどもね、あいにく西上さんに謝る事はできませんわ。今後とも話す機会はないでしょうし。」

「おい早乙女!勝手に誤解して殴っておいてそれはー

まどかはすかさず名越の制服のシャツをひっぱり首を横に振った。

「いい!」

どうしても相手の女を憎まずにはいられない気持ちは、恋破れた身にしか分からない。

あいつさえ、いなければ。

いざ今度は自分がそういう感情を向けられるといたたまれないけれど、別れる原因に一枚かんでいる存在なのだ。

まどかもこの早乙女のように、あの人の婚約者とかいう女を一発叩いてから退場していれば、いくらかスッキリしていたかもしれない。

(私も叩いとけば良かった。)

まどかはそんな心の声を喉に閉じ込めた。

屋上に名越と二人残されたまどかは、早乙女に感化されてすっかり肩を落とし地面を虚ろに眺めていた。

「西上、顔上げて殴られたところ見せてくれ。いや、すぐ冷やさないと。」

こんな弱った顔を見られたら何と思われるか、まどかは顔を両手で隠す。

そんなまどかを見て、名越はさらに声色を優しくした。

「おい大丈夫か?歩けるか?冷やしに行こ。痕になったら嫌だろ?ん?逆に痕が残ればいい虫よけになるか…」

痕が残るのは御免だ。

まどかは一人ツッコミを繰り広げる名越に構わず、うつむきながら足早に歩き始めた。

8月の更新も1~2回になりそうです(_ _)

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