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「果歩ちゃん。お腹すいたし、お昼にしようか。」
イオン店内をぐるぐる周り、サイゼリアに入ることになった。
お金を持っていない学生にとって、低価格のこの店は、有難い存在である。
「さーて、なに食べるかなー。果歩ちゃん、なに食べる?
おれ、ハンバーグ食べようかな!目玉焼きハンバーグ、好きなんだよな~。」
メニューを見ながら、ニコニコしている先生。
そんな先生を見ていて、心地よくなった。
「…ん?なんだこの感情は。どうして先生といると楽しいとか思っているんだ。私は一人で生きていくって決めたはずなのにあれ。」
「果歩ちゃん?全部聞こえていますよ?もしもしー?」
「一人で生きていくには勉強が必要だから塾に通っているのに何をやっているのだろうか。
人生設計が狂ってきたぞ。第一、今回先生と出かけたのは目的があったのに。あああ、楽しむとか人間失格すぎますよね。」
「…いやね、果歩ちゃん。楽しんでもいいと思うけど。」
先生はそう言って、呆れながら笑っていた。
「勝手に聞かないでくださいっ!先生のくせに!変態!」
「……っ。はいはい。聞こえるぐらいの声で喋っていたのにね。俺が悪かったですよ。」
なんだろう、この感情。
自分でも分からない。
人と話していて楽しいって思うこと自体が久しぶりすぎる。
どうして、先生といると楽しいって思ってしまうんだろうか。
「まぁ痴話喧嘩はこれぐらいにしておいて。
俺も今回、目的があって、果歩ちゃんを誘ったんだ。はいこれ。」
先生がカバンからあるものを取り出した。
「今日はこれを果歩ちゃんに返そうと思ってね。」
「…それはっ。私の。」
B5のキャンパスノートだ。
『常盤ときわ 果歩かほ』と名前が書いてある。
「この前、塾に忘れていったでしょ?生徒が私に届けてくれてね。
それでさ。ごめんね、勝手に読んじゃったよ。」
そのノートは普通のノートではない。
私の大切な、とても大切なノート。
「俺さ、読んでてびっくりしちゃったんだ。
あのときからずっと、果歩ちゃんに声かけようって思ってた」