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私にも分からない。
色々なことが重なって、こうなってしまった。
こんな自分が好きなはずがない。
見ず知らずのあなたに分かるわけがない。
「俺さ、放っておけないんだよ。果歩ちゃんみたいに元気ない人をみるとさ。
すごく心配になるし、力になりたいって思うんだ。」
「私のこと、なにも知らないくせに。よくもまぁ、そんなことが言えますね。」
私は思わずムキになった。
「分かるよ、果歩ちゃんのこと。…分かるから。」
先生はそう言うと悲しそうな顔をした。
どうして、この人はこんな表情をするの。私なんて他人なんだから。
他人の心配をするとか。
意味が分からないよ。
「…そうだ!果歩ちゃんさ、今週の日曜日ヒマ?まぁ、ヒマだよね。
どこか遊びに行こう!どこに遊びに行くか俺に任せて!ねっ行こう行こう!!」
日曜日。私は、先生と待ち合わせしていた。
あのあと、結局断れなかったず、今に至る。
「果歩ちゃんー!お待たせっー!待ったー?」
「私服もかわいいねっ!よしっ、行こう行こうっ!」
先生の助手席に乗る。
どうやら待ち合わせ場所まで車で来ていたらしい。
「さーて、行きますかっ!!」
そういえば、どこに行くのだろうか。
なにも聞いていないのだが。
「どこに行くかって?お楽しみだよ。楽しいところさー!」
相変わらずテンションが高い。
どこからこんな元気が出てくるのだろうか。
「そういえば、お互いのことって全然知らないよなー。俺はね、果歩ちゃん…。」
ドライブしながら先生のことを色々聞けた。
先生は、医学部4年生。3浪していて、今年25歳になるらしい。
「俺は、兄貴と比べて勉強できなかったからなー!あははっ。」
地元は埼玉で、今は一人暮らしをしているらしい。
バイトは3つ掛け持ちしていて、忙しいけど、充実した日々を過ごしている…とか。
「勉強はすごく難しいけど楽しいよー!
でも留年しそうでねー…。専門分野って難しいわ。」
3浪ってことは、3年間も受験勉強していたのか。
「いや、違うよ!
勉強できたり、できなかったり。まぁおれ自身も色々あったんだよ。」
そのあとに流れる沈黙。
いつも一人でベラベラと喋る人なのに珍しい。
「色々ってなんですか?」
私が沈黙に耐えられなくなり、尋ねてみた。
「…兄貴が死んだ。」
「えっ!?」
「兄貴が死んだ。心臓マヒだって。
兄貴を起こしにいったら、身体が死後硬直で固まっていたよ。
あれがはじめて見る死体だったな。
翌日に警察が来て、俺も事情聴取された。
母さんは泣いていたよ。そのあとにお通夜もあってさ。
そのあとに、父さんが愛人と出ていってさ。別居生活だよ。
母さんはうつ病になっちゃって。
もう家の中が滅茶苦茶だった。」
「それは…。」
大変でしたね、とか言えない。
こういうときって、なんて反応すればいいのか分からなかった。
「…という、ドラマをこの前みたんだー!暗すぎるよな!あれっ。心配してくれた!?」
いつものひょうきんな先生に戻っている。
「ちょっと心配した自分がバカでした。もう先生嫌いです。」
「ごめんってー。あ、もうそろそろ着くよー!」
思っていたより、道が空いていたらしい。はやく着いたようだ。