2.
その日の晩に、変な夢をみた。
私はいつも通り塾に通っている。
そこで、アルバイトの先生と話している。
とても話していて楽しい。心が騒ぐ。
「果歩ちゃんってさー、○○で△△ってどうして?」
私は思わず黙り込んで俯いてしまう。
なにを聞かれたのか分からない。
でも心の傷を掘り返されるような、そんな気分になった。
そんな私を心配そうにみつめている先生。なんとも奇妙な光景。
先生が何か言おうとしているところで目が覚めた。
変な夢だった。だいいち、あの先生とは普段まったく喋らない。
とても明るい先生で教え上手。生徒たちからも人気がある人だ。
そんな先生がどうして私と話しているのか、どうして一緒にいて楽しいと思ったのか。
わけが分からない。
モヤモヤとした気分を抱えたまま、私は塾に向かった。
塾に着いたのは12時半ごろ。
次の授業は、14時半からだから生徒は誰もいなかった。
いま流行りの個別指導の塾である。
コンビニ2個分ぐらいの広さで、あまり広くない。
「…はやく着きすぎたか。」
私は適当な場所に座ろうと、周りを見渡した。
すると、あの人がいたのだ。
「あれっー、果歩ちゃんだ!来るのはやいねー!勉強熱心だねー!!」
昨日の夢に出てきた先生だ…。これは偶然なのか。
「なにブツブツ言ってるのー?一緒にご飯食べない?」
普段だったら断るところだ。
けれど、昨日の夢が気になった私は先生の近くに座った。
生徒が勉強するところのすぐそばに、先生が休憩する場所がある。
そこで生徒たちは、先生と団欒したり、分からない問題を教えてもらったりしている。
その場所には生徒がたくさんいて、私は絶対行かない場所である。
授業外で先生と話そうとは思わない。
みんなは何を話すのだろう。不思議で仕方がない。
「いやー、寝坊したって思って慌てて起きて塾に来てみたらさー!
12時半で。暇すぎて仕方なかったんだよねー!」
「このバイト終わったあと、家庭教師のバイトあるんだー!忙しいなー!!」
「今日もいい天気だよねー!!!こんな日は海いきたいよなー!!!!」
はぁ…とか、そうですね…しか言ってないのに、次々と喋る先生。
どうしてこんなに喋れるんだろう。
「…先生ってよく喋りますね。すごいです。」
「よく言われるよ。でも逆に俺は不思議だけどなー。
果歩ちゃんがどうしてそんなに心を閉ざしちゃっているのか。
辛そうにしているのか。助けてほしいのに、どうして誰も気づいてあげてないのか。」
この人はいきなりなにを言いだすのか。
「果歩ちゃんってさ、人を信じることを諦めちゃったのってどうして?」