第八話~防衛ライン
このページを開いていただきありがとうございます。
今回、もしかしたら、アーテナとシーナ戦を信じて待っていてくれた方もいるかもしれませんが、ごめんなさい。
先にルーヘッツ公国側での動きになります。
――決して、戦闘シーンが思いつかなかったからというわけではありませんよ? ありませんからね?
←大事なことなので二度言いました。
では、少しでも楽しんでいただければと思います。
王国にてアーテナがシーナと模擬試合という名の決闘をしている頃、ルーヘッツ公国の中心部にある建物の一室では魔王の体と魂の封印状態を調べた結果を報告する為に、フォルスカー博士が国の有名な博士を集めて今後についての会議を行っていた。
「……以上の事から、魔王の封印はしばらく解けないとみて間違いはなさそうです」
「そうか、ご苦労だったな。フォルスカー博士」
フォルスカーが報告を終えて席に着くと、今日の議長をやっている博士から労いの言葉をかけられた。
「しかし、今はまだいいかもしれないが、問題はこれからをどうするかだぞ?」
「その通りだ! 最近、魔物が活発化しているのは事実なのだ!」
「現に王国騎士殿達はここに来るまでに魔王の配下だったものに襲われているのだろう?」
「守りを固めなくては!」
「だが、これ以上何ができる!」
それに合わせて、席についている博士達が口々に述べていくが、フォルスカーも守りを固めるべきだと思っていた。
(絶対、近い内にこの国へ攻め入ってくる。それを守るだけの準備が必要だ)
「王国騎士副団長殿はどう思う?」
そこで、フォルスカーの横に座る副団長に問いが投げかけられた。
「前回の魔王侵攻の時のように、二国ないし三国同盟を組むぐらいしか思いつかない」
「なるほど。確かに、それが一番かもしれない。しかし、可能なのか?」
「可能も何も、王国側はその方針でいる」
「分かった。では、まずは王国との二国同盟を結ぼうと思うがどうだろうか?」
議長は副団長の意見を聞いて頷くと、会議室にいる全員に問いかけた。
「賛成だ!」
「あぁ、それがいい」
次々と賛成の意見が述べられていく中、反対意見は出なかった。
「では、我がルーヘッツ公国はスクワート王国と二国同盟を結ぶ!」
議長のその発言に満場の拍手が送られる。
その時、部屋に精霊が飛び込んできた。
「おい、どうしたんだ!」
『この国を骸骨が大衆で包囲しています』
(魔王の臣下が攻めてきたか)
フォルスカーは予想通りの攻撃に対応策をまとめる。
「もう魔王の臣下が攻めてきたというのか!?」
「それ以外に何がある!」
「どうする? まだ何もしていないし、現在、魔王の体も魂もこの国にあるのだぞ?」
急に騒然となる会議室。
公国は森の中に潜むようにあるが、元々が森の中に四角形の障壁結界を張って、その中を国としている。また、その国の内部は碁盤の目のように九つに障壁や門で区切っただけの簡単なもの。そして、公国の防衛は、三つの防衛ラインからなっていて、第一は森に住む精霊たちによる公国を隠す幻惑を含む結界障壁。第二は区内に入る東西南北――四つのルート上にある門に待ち構えている自然及び召喚魔法使い達の防御。第三は別名――絶対死守ラインと呼ばれ、この公国中枢区の周りの魔法障壁となっている。
尚、公国への入国希望者は、第一から第二防衛ラインまでの距離が長いため、精霊によってアーテナ達のように直接国内へワープしている。
『敵は第一防衛ライン突破、幻影結界消滅しました。魔法を使われた為、被害甚大』
次いで、精霊から告げられる現状報告。
「何!? それは不味い。急いで対策を!」
(なんで魔法と云う芸術を研究していながら、ここまで判断が遅いのか……)
「精霊は、第二防衛ラインに退避して結界の強化! 国内の住人は第一・三・七・九区に避難させろ!」
フォルスカーは呆れながらも、声を張って精霊や博士達に指示を出していく。
「門周辺地域を捨てて、戦場にするということか?」
「他に何がある! 第二防衛ライン周辺に国中の魔法使いを集結させろ! 魔法使いなら我々の方が上だ!」
区の番号は北西を第一区、北を第二区、北東を第三区、中央が第五区……そして、南東を第九区と言う風につけてある。よって、中央を除いた門がない地区に住人を避難させるのは必然だった。
「俺も防衛に回ろう」
そう言って、副団長が立ち上がった。
フォルスカーとしては、防衛能力はかなり上がるので、願ってもない申し出だった。
「では、私と共に激戦区に行こうか? 敵の兵が多いのはどこだ?」
『北――第二区と東――第六区ですね』
「よし、ならば第二区に行こう。第六区は頼めるか?」
精霊の言葉を聞いて、フォルスカーは第二区に行くことを決めると、クリスタに第六区を任せてもいいかと尋ねた。
「了解した」
「助かるよ。皆、ここは世界一の魔法国だ! 魔法戦で負けることがあってはならない! 絶対勝つぞ!」
「「「オー!!!」」」
「では、ワープを頼むよ」
そうして、フォルスカーは副団長と共に第二区へとワープしていった。
(数だけの兵なのか?)
「おい、敵が弱すぎないか?」
「あぁ。それを今、丁度思っていたところだよ」
第二区へ飛んだ二人は、現地にいた魔法使いと共に火や光の魔法によって、どんどん骨を浄化していった。
その結果、見る見る内に敵は減っていき、第二区の敵は後少しとなっていた。
しかし、そこへ第八区からの通信が入った。
『敵の指揮官と思しき敵が侵入! 現在、南の第二防衛ラインを突破されました。至急応援を!』
「何!?」
「なるほど。こちらは数で押すと見せかけた囮というわけだ。してやられたな」
フォルスカーが驚いているところへ、隣にいる副団長が冷静に分析をする。
「で、どうする?」
「応援に行くよ」
副団長の質問に、当然の答えを返す。
「そうか。ここは任せておけ!」
「助かるよ」
フォルスカーは軽く返事をしながら、両手を肩の高さに広げて、魔法を詠唱した。
「召喚――コール『フェンリル』!」
「使うのか?」
「魔力消費が大きいが、それしかないだろう?」
問いに対して諦めたように答えるフォルスカーの前に、アーテナが黒ウサギと表現した黒い霊獣が現れる。
「呼んだか? 主よ」
「あぁ、国を守るために力を貸してくれ」
「分かった」
フォルスカーはもう一度魔法詠唱を始めた。
「我が魔力を糧に、汝の本性を示せ! 魔力解放――オーバー=マジック!」
すると、先ほどまでウサギのように可愛かった黒い霊獣は、博士の胸ぐらいまでの高さの大きな狼に姿を変えた。
「第八区まで飛んでくれ」
その姿を見るのは久々だなと呟く副団長を尻目に、次なる戦場へと飛んでいくのだった。
(これは酷過ぎる)
そこには元々は国を守っていただろう魔法使いたちが、変わり果てた姿になっていた。
――いや、それが、死者となっているだけだったら、どれだけマシだっただろうか?
(死者となった魔法使いが敵となっているとは……。これは魔王侵攻の再来だ……)
第三防衛――絶対死守ラインの近くには、公国に来る途中で遭遇したローブを着た人型のモンスターが死者を操って、第五区へ入ろうとしていた。
「クソー!」
フォルスカーは我慢の限界だった。
「フェンリル、バニシング=オブ=デス!」
「ワォーン」
フェンリルが吠えると、死者の軍団ともいえる敵の足元に黒い魔力の池のようなものが生まれた。
そして、影が消えるかのように静かに死者達が消えて行くのを見たローブを着たモンスターがフォルスカーを睨んできた。
「今度はあなたですか。つくづく、あの一戦の方々と縁があるようですね。ですが、こちらの勝ちです」
突如鳴り響くサイレンの音。
――それは、第三防衛ラインが突破されたことを示すものだった。
「では、私は先を急ぎますので。あなたには彼らと遊んでいていただきましょう」
そう言って指を指揮のように振ると、フォルスカーの前にかつては公国の魔法使いだった者達が立ちはだかった。
「クッ、フェンリル!」
先ほどの技は大規模である代わりに魔力を大量に消費する為、もう使うことはできず、一匹ずつ倒していくしかなかった……。
(あいつさえどうにかなればいいのに……)
フォルスカーは悔しかった。同胞が死んだことも、モンスターに第五区へ侵入されたことも全て……。
そこへ、副団長から魔道具で連絡が来た。
『おい、絶対死守ライン突破されたみたいじゃないか。どうするんだ?」
(そうか!)
しかし、そのおかげで名案を思い付いた。
『それについては、こちらとしても悔しい。しかし、第五区まで入られてしまうと、大規模戦も何もできないんだ』
『じゃあ、どうするんだ?』
『あのローブを着たモンスターを含めて、公国に侵入した敵を王国に飛ばして、撃破できないだろうか?』
『バカ言え! そんなことできるわけないだろう!?』
『しかし、このままだと、我々は重要資料が詰まった第五区を見捨てることになってしまう。もちろん、敵ごと燃やしたりということもしたくないんだ』
『クソッ、相変わらず、面倒な国だ!』
『頼む! どうにかならないか?』
『……現在、第五区の南部に来たが、確かにこれは不味いな。障壁を張った所で、大規模魔法以外に片づける方法がなさそうだ』
『それが分かっているから、頼んでいるんだ!』
魔道具の向こうで副隊長が悩んでいるのか、あそこなら人も来ないだろうし、戦闘用で頑丈だから何とかなるかという声が聞こえてくる。
『分かった。王国への転移の準備をしろ!』
そして、一拍おいて、その転移先を告げた。
『場所は――特別訓練場だ!』
読了ありがとうございました。
アーテナとシーナが戦う戦場に送り込まれることとなる魔王軍の元部下達。尚、あらゆる通信手段は、国同士をつなげるほど長いものではないとご了承ください。そのせいで、副団長がこんな決断をしたのだと。