第六話~遭遇
(行っちゃった。どうする?)
フロウは、肩に乗っている小鳥へ話しかける。
『何がしたいの?』
(うーん。森は見たし、家に帰る――かな? でも、来た道からは帰れないし)
『大丈夫。それなら話は簡単だよ』
(本当?)
『本当だよ。この国の中に流れていく川を泳いでいけばいいんだから』
(そんなことできないよー)
『僕が水を操って、フロウから守ってあげるよ。僕は水の霊獣だからね』
(うーん)
フロウは、少し考え込むが……。
(分かった。小鳥さんを信じる!)
『僕はあくまで精霊だけどね……。じゃあ、行こうか』
(うん!)
フロウ達は国内に入るために川へ歩いていく。
(きれいなかわ~)
目の前には澄んだ綺麗な川があり、その先は王国の城壁へ続いていた。
『僕達が守っている川だからね。汚させたりしないさ』
(そうなんだー)
『じゃあ、行こうか。川に入ってみて』
(うん)
フロウは言われるままに川に入った。
(あれ、つめたくない?)
しかし、服が水で濡れたり、水を冷たく感じることはなかった。
『言ったでしょ? 僕が水を操るって。フロウは一切濡れないよ』
(わーい!)
フロウは楽しくなってきて、水遊びを始めた。
『ねぇ。遊ぶのはいいけど、帰らなくていいの?』
(忘れてた)
十五分ほどしたところで、霊獣に止められて水遊びを止めた。
(あ、忘れていたと言えば、小鳥さんの名前知らない)
『僕に名前はないよ?』
(じゃあ、私がつけてあげるね。えーと……)
霊獣の名前を考え始めるフロウだったが――
(分かった! 青いからブルー!)
――ネーミングセンスがあるとは言えなかった。
『ブルーか。ありがとう』
それでも、ブルーは嬉しかったようだ。
『じゃあ、行こうか』
(うん!)
川を泳いで国内へ入っていく。
「よいしょ」
フロウは国内に入って少しした人目が少ないところで、川からあがった。
「そこにいるのは誰かな?」
それでも、見つかってしまったようだ。
(見つかっちゃったよ)
『これに関しては仕方がない』
フロウは近づいてきた女の人に怯え、そして、頭を両手で庇おうとするが――
(え?)
――予想した衝撃は来なかった。
「こんなところでどうしたの? 迷ったの?」
(あれ?)
「うーん。どうしようかな?」
「おい、シーナ! その嬢ちゃんはどうした? シーナの子どもか?」
「違うよ! もう……」
シーナと呼ばれた女の人は、声をかけてきたおじさんに反論した後、目の前でしゃがんでフロウと目の高さを合わせていた。
「さて。どうしたのかな?」
(どうしたらいい?)
『わからない』
フロウは目の前にいる女の人が悪い人ではなさそうだけど、この人はどこの人だろうと思い始めていた。
ふちが角ばった帽子、ベスト、薄手のズボン――どれも深緑を基調とした服を着ている。
――鎧を着ている騎士が多い王国では珍しい服装だ。
お互いに相手が分からないという中、話は進む。
「見た所、霊獣を連れているけど、召喚士ではなさそうだし……」
「れいじゅう? そういえば、アーテナも言ってた」
「アーテナ! 今、アーテナって言ったかい?」
「うん」
「そっか。アーテナの知り合いか……」
「?」
女の人は突然立ち上がると、フロウに笑いながら右手を差し出す。
「ボクはアーテナと同い年で、仲良くさせてもらってるんだ。名前はシーナだよ。よろしくね?」
「私はフロウ=フォルテ。この子はブルーです」
自己紹介をして、握手をしながら軽くお辞儀をする。ブルーもそれに合わせて軽く明滅した。
「フォルテかー。ねぇ、フロウ。アーテナからあまりフルネームで自己紹介しないほうがいいって言われなかった?」
(そういえば……)
『フロウ、その名前は有名すぎるから、自己紹介のはフルネームで言わないほうがいいと思う』
『そうなの?』
『うん。一種の英雄的存在だからね』
『わかった』
そんなアーテナとの会話を思い出す。
「言われた」
「だよね。気を付けたほうがいいよ?」
「分かった」
「よし。じゃあ、フルネームで自己紹介受けちゃったし、ボクも名乗ろうか」
そこで一拍開ける。
「シーナ=デュレットです。アーテナみたいに役職名はないけどね?」
本当はダメだからねと付け足して言った。
「やくしょく?」
「あぁ、そこから説明しないとダメか。国によって違うけど、偉い人には特別な役割を付けるんだよ。それと一緒に付くのが役職名」
「じゃあ、アーテナのは?」
「アーテナのは聖騎士と言って、騎士の中でも特別な任務にあたる、強い六人に与えられるものなんだよ。団長・副団長達は別らしいけど……」
「アーテナつよいの?」
「うん、すごく強いよ。何年も前から剣を振っているみたいだしね。ボクと初めて会った時には既に剣術が凄かったよ」
シーナは思いふけるようにしながらそう言った。
それに何かを言おうとするフロウだったが……。
「おい、シーナ! アタッカーが足りないんだ! 手伝ってくれ!」
「分かったー!」
遠くの方からおじさんに声をかけられてしまった。
「ごめんね。ボクはもう行かないといけないみたいだ。また今度会うと思うから、その時ゆっくり話そうね」
フロウは静かに頷いた。
それを見て、シーナは颯爽と走っていく。
その時、フロウには上着の裏にナイフが数本入っているのが見えた。
(行っちゃったね。アーテナのおともだちはみんなすぐ行っちゃうのかな?)
『似た者同士ってことだね』
(そうだね)
フロウはブルーと話しながら、自分の家へと帰って行った。
(あのナイフと黒いものは何につかうのかな?)
そんな疑問を抱きながら……。
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