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ヴェイド  作者: 片桐渚
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第五話~前魔王侵攻

このページを開いて下さってありがとうございます。

少しでも楽しんで頂ければと思います。

「まさか、二十年前の魔王侵攻があんな話だとは思いもしなかった……」

夜。王国の商業地区でアーテナは一人呟く。

――博士から聞いた話を思い出しながら。


「まず何から話せばいいだろうな。……まずは座れ」

 そう言って、博士は部屋の中央にあるソファに座るように促してきた。

「簡単に言ってしまえば、魔物――モンスターが騒がしいこの現状が、二十年前と同じではないのかと怯えているわけだ」

 そして、アーテナとユードが座ったのを見て、博士も座ると静かに一言告げた。

「封印が弱まっているのではないか、魔王が復活するのではないか……と」

「…………」

(そんな馬鹿な。封印は最低でも五十年は持つという話だったはずでは……)

「驚いているようだな、アーテナ。身に纏う魔法のオーラが揺らいでいるぞ。あ、お前達は波動と呼ぶんだったか?」

 そこで、博士は考えるような素振りをした後――

「ところで、時間は大丈夫なのか? こちらとしては、別に一からあの戦を話しても構わないのだが」

 ――後ろを向いて、副団長に訊ねた。

「ん? 大丈夫だろ。帰った所で王の身辺警護か書類の片づけがあるぐらいだしな」

「そうか。では、全てを話すとしよう」

 博士が宙に細い人差し指をスライドすると、その場にいた五人の目の前に湯呑に入った冷たいお茶がポンと出てきた。

「粗茶ですが、どうぞ」

 横に黒ウサギがいた。どうやら、注いでくれたようだが……。

「その、気配を消して突然出てくるのを止めてもらえないか?」

 アーテナは本気で頼んだ。

「無理です。私は闇の霊獣ですから、影のように身を忍ばせていなければならないのです」

「そ、そうか……」

「よし。では、一から話すとするか。今から二十年前の戦争を……」

 博士はソファに座り直すと話し始めた。

「まず、未だにこの大陸の外は知らないが、少なくともこの大陸には、特色ごとに分かれた五つの国があった。それは知ってるな?」

「はい。騎士の多い国・魔法の研究が盛んな国・物の創造技術が優れた国・戦闘好きが集まった国・暗殺技能に優れたものが多いと言われた国」

「そうだ。そしてある日、その五つの国よりも北方の極寒の地に城が現れた」

「城ですか……」

「あぁ。その直後からだったよ。元々活発化していた魔物達が、急にまとまって五つの国を攻めるようになったのは、な」

 博士はお茶を飲んで、口を湿らせた。

「始めに陥落したのは、技術者達が集まる商業国だったよ。……彼らは戦闘技術は持っていないからな。一度入り込まれたらどうしようもなかったと見える」

「そんな……」

「これを知った他の四国は、緊急の会議を行った。しかし、第一回目は四国がまとまることなく終わったよ」

「何故ですか?」

「戦闘好きが、戦って死ぬなら本望などと言い出したからだ。仕方がなく、魔法の研究者達は騎士達に守ってもらう形を取り、形式上は三国をまとめることに成功した」

 博士は何かを思い出しているのか上の方を眺める。

「流れは明らかに魔物――魔王軍側にあったと言えるな。戦闘好き達も早々に敗北していたし」

「…………」

 これにはアーテナも呆れて、何も言えなかった。

「残った三国は、敗北した国から逃げてきた人達の受け入れと援助を始めた。その中には国々を渡り歩くと言われる奏者も混ざっていた」

「奏者ですか……」

「後の、魂の奏者――ジール=フォルテもな」

(フォルテ……)

 アーテナがその名を聞いて思い出すのは王国近くの森で出会った、少女だった。

(そういえば、無事に帰れただろうか?)

「話を続けるぞ。戦いが熾烈を極める中、食料を含めた資源が少なくなり、そろそろこちらからも攻めないとダメだという話になり、捨て身の攻勢に出た」

「捨て身ですか」

「あぁ。兵力に差がありすぎたからな。敵が五十万以上でこちらが二十万行くかどうかだった。それでも、勝つつもりだった」

 博士は再びお茶に口を付けた。

「今となっては禁術と呼ばれる魔法を惜しげもなく使ったよ。それしか勝つ方法がないと解っていたからな。それでも、魔王を倒すことはできなかった」

「それで封印を?」

「そういうことだ。ジールがレクイエムを演奏し、魔王の魂を取りだして結晶に閉じ込めた。そしてその体は今の王国が、魂はこの国で保管した訳なのだが」

 そこで博士は一度言葉を切った。

「……………………」

 長い沈黙。

「……博士?」

 アーテナは博士に近づいて様子をうかがう。

「……スー……」

「寝た!?」

「仕方がないですね。博士はここ三日ほど徹夜で魔王の魂の方を調べていましたから」

 また、音もなく黒ウサギが出てきた。

「まぁ、続きは――現在の魔物が活発化しているのが魔王の封印が甘くなったりしているからではと踏んでいるから、といったところか?」

「だろうな」

 壁際に立って、周りの気配をうかがっていた副団長達が話をまとめた。

「さて、俺達はここにしばらく滞在しているが、お前達は帰国して、俺からの連絡を待て」

「わかりました」

 そう言って、アーテナ達は帰国専用魔法のアイテムを使って王国へ帰国した。


「連絡があるまで待機……か。どうしたものかな」

 アーテナは、人がいなくなった夜の商業区を一人歩いて帰宅するのだった。

読了ありがとうございました。

最近、第何話の後に題名をつけようかと悩んでいます。

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