第四話~入国
このまま進めるか悩みましたけど、アーテナで行きます。
落ち着いたら、あの子も出てきますので少々お待ち下さい。
「副団長!」
アーテナはあの得体が知れない魔王の手下とのことが気になっていた。
「なんだ? あのバケモノのことか?」
「はい。あれは一体?」
「アイツは魔王の影で動いていた奴でな。魔王討伐の時、一緒に倒すはずだったんだが……。魔王の封印で手一杯で逃げられた。」
「そうだったのですか」
(やはり、相当強いのか)
「では、馬車の中身については?」
「その話は後だな。着いたぞ」
前方には、森の中に大きな都市が……ということもなく、ただの森にしか見えなかった。
「あの、何もありませんけど?」
「見えないだけだ。この国は魔法で森に擬態していてな。普段はただの森にしか見えない」
「では、どのようにして入るんですか?」
「入れてもらう……」
そう言って前に数歩進むと、大声で一本の木に向かって告げる。
「我々はスクワート王国の騎士だ。フォルスカー博士に依頼された物を運んできた! 入国を希望する!」
『……はいはい。じゃあ、入国希望者は全員使える魔法の属性を言って。一個でも抜けていたら虚偽申告となるよ』
どこからやってきたのか、闇の精霊が直接頭の中に話しかけてきた。
(ここはおとなしく従っておこう)
『あ~、他人に聞こえないぐらいの小声でいいからね。大声で話しかけられたらうるさくてかなわないし』
「光魔法。身体強化としては風も使える」
『……それでは四名様入国。案内人が一人付きます』
――次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
眼を開けた時、アーテナ達は広い花畑に立っていた。近くに川があるのかサラサラと水の流れる音が聞こえてくる。
「ここは……?」
「ルーヘッツ公国の入り口ですよ? 女性騎士さん」
初めて聞く声に、そちらを見てみると全長三十センチぐらいの黒いウサギがいた。
「えーと……」
「わたしはあなた方の案内人です。では、博士のいる所へ案内しますね」
かわいいのはいいと思うが、案内人にしてはいささか頼りなく思えてしまう。
「見た目に騙されるなよ? そいつを怒らせると国内全域から魔法が飛んでくるぞ」
「国内全域は言いすぎですが、そういうことですので、手荒な真似はしないよう言っておきます」
そう言って、遠くに見える門の方へ歩いて行く。
「嘘つけ」
小さく副団長が呟く。
「何か言いましたか?」
「いや、何も……」
(凄い、副団長が委縮している……)
そんな会話をしながらも、小さな黒ウサギについて花畑を歩いていくと、門をくぐった辺りから都市の様相が見えてきた。
「ここはこの国の中心部。研究所はこちらになります」
そして、連れてこられたのは一軒のドーム状の建物の前。高さは二階建てぐらいで、研究所としては小規模だろう。
「フォルスカー博士。王国から騎士がいらっしゃいました」
「……………………」
「お留守でしょうか?」
「いえ、多分、研究に夢中なのかと。少々お待ちください」
そう言うと、黒ウサギは姿を消した。
「うわ、消えた!?」
声を上げたのはユードだが、アーテナも驚いていた。
「あいつは霊獣なんだよ。それも、相手に姿を認識させるほどに濃密な魔力を纏った……な」
「そんな……。え、でも、普通に話していたような?」
「魔力を豊富に持ち、知識が高まった奴のみできるってわけだ。昨日のアレと同じくバケモンだな」
「おや、それは心外ですね。その口いらないようですし、消し飛ばしましょうか?」
(いつの間に戻ってきたんだ?)
「気配を消すのも得意なんですよ? さぁ、お入りください」
アーテナの考えを読んだのかは知らないが、黒ウサギはドアを開けて、研究所内へ招き入れる。
(ここは研究所ではなく、魔法図書館じゃないのか?)
通された部屋には見上げるほど高い本棚に、ぎっしりと詰められた多くの魔法に関する本があった。
中には今では禁術となったものに関するものもあるようで、その歴史は古そうだ。
「待たせたね」
本の背表紙を眺めていると、一人の白衣を着た女性がやってきた。
「初めての人がいるね。私の名前はフォルスカーだ。この研究所の主任研究員をしている。訳あってフルネームは明かせないが、そこは了承してくれ」
「俺はユード=シールド=アクス」
「初めまして、博士。私はアーテナ=アイギス=ニーケです」
ユードの短い自己紹介に続いて自分の名前を告げると、博士が驚いた顔をした。
「ほぅ、ニーケ家か。それも、アイギスとは……」
ユードに目をくれることもなく、じっと博士がアーテナの方を見てくる。
「おい、本題を忘れるなよ?」
「そうだったな。で、依頼した物は?」
「外でクリスタが守ってるよ」
「あいつか……。よし、裏口から中に持って来てくれ」
「分かった。お前らはここで博士から何か学んでおけ」
そう言って、副団長は外に行ってしまった。
「しかし、その若さでアイギスか。つくづくあの一家には驚かされる……」
「私の一家の事をご存じなのですか?」
「知ってるさ。ニーケ家を知らないで、研究員なんて名乗れないからな」
「そうですか……」
「あぁ、騎士の名門、ニーケ家。その名は他国でも知っている奴が多い」
「アーテナは、そんなにすごい家の人間だったのか!?」
ユードが驚くと、博士はユードに対して冷たい目を向ける。
「それすらも知らずに騎士か、笑わせる。だが、これで納得がいった」
「何がですか?」
「お前が多属性の適性を持っていることが……だよ」
「え? 私は光と、身体強化で風が使えるだけですが」
「それは使えていないだけだろう。お前からしっかりと感じるからな」
「そんな……」
「ま、鍛えることだ。ニーケ家の人間は大抵、四属性程度使える」
ガチャ。
「ん、来たか?」
副団長とクリスタさんが大きな棺桶を持ってきた。
「持ってきたぞ」
「あぁ、置いておいてくれ」
「あの……今回、これをここに持ってきた理由を教えてもらってもいいですか?」
「なんだ。知らないのか?」
後ろを向いて、副団長の方が首を振るのを見ると、博士はゆっくりと話し始めた。
「これは前回――二十年前の魔王侵攻の話だ」
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