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ヴェイド  作者: 片桐渚
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第十八話~最善手は

このページを開いていただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。


「イヤ、嫌だ!」

 アーテナは暗闇の中で膝を抱えるようにして一人座っていた。

(……嫌? 何が?)

 自分が何に対して嫌がっていたのか思い出せない。

 ただ、何か取り返しがつかないことをしたような気がするだけだった……。

(それに……ここはどこなんだろうか?)

 辺りは常闇の様に暗く、何も見えない。

『ここはアーテナ――あなたの精神世界』

 どこからか、聞き覚えがある声がしてくる。

「誰?」

『私ですよ』

 目の前に白い光球が浮かび上がる。

 ――それは、五年前に自分と契約した光精霊だった。

「どうしてここにいるの?」

 普段であれば精霊は契約者の周りにいることはあっても、体内に入ることは無いはずだ……。

『こうしなければ、あなたの心を守れなかった……』

「何があった?」

 精霊に問いを投げかけるアーテナの前に、正八面体の結晶のようなものが現れる。

『あなたの記憶の一部です。今、私にできる限界です』

「どういう意味だ? 教えてくれ!」

『生きて、ください……』

「待って! 待ってくれー!」

 アーテナは必死に手を伸ばすが――それが届くことは無く、精霊は消えて行った。

「まだ聞きたいことがあったのに……」

 悲しみにくれながらも、唯一残った結晶に手を触れると眩いまでの光を放った。

 そして、王国での惨劇が絵の様に浮かび上がる。

「何だ、これは……?」

 オーディスに結晶を埋め込まれた後、何を思ったのか王国騎士に後ろから切りかかった。

 それは剣を持たない国民にまで向けられ、次々と自分の剣で切られて血の海に浸る人々。

 最後にはシーナにまで切りかかっていた。

「ウソだ……。嘘だー!」

 アーテナは慟哭した。

 その声に反応したのか、辺りがガラスの様に割れて消滅していく。

「はぁはぁ……」

 アーテナはベッドから跳ね起きた。

「アーテナ?」

 横を見るとシーナがいた。

「やった! もう起きないのかと思ったよ!」

 飛びかかるように抱きついて“よかった”と何度も繰りかえすシーナを抱きしめながら、アーテナは今いる部屋を見て、先ほどの記憶が嘘ではないと悟った。

(王城特別囚人者用医務室じゃないか……)

 重罪人の回復を待つ時に使う専用医務室。

 部屋に一つしかない小さな窓を見ると、外は暗くなっていて、夜のようだ。

 アーテナが寝ていたベッドにフロウも寝ていた。

「シーナ」

 声の音量を落として名を呼んだ。

「うん、分かっているよ。全部話す」

 アーテナは自分が寝ている間の事を全て聞いた。

 ――自分が公開処刑されそうなことも。

「やはりあれは悪夢ではなかったんだ……」

「うん……」

「私はこの手で、技で、多くの人を切り裂いた……」

「アーテナ……」

 無音の空間。それを破ったのはアーテナだった。

(これしかない)

「決めた。私は公開処刑を受ける」

「何を言っているの、アーテナ! ボクはイヤだ!」

「でも、こうするしかない」

「そうだけど、そうかもしれないけど……」

 声が尻すぼみになっていくシーナだったが、

「この子は?」

 フロウを撫でながら聞いてきた。

「この子は唯一の肉親を失った。それも目の前で――」

『そんなこの子にまた悲しみを負わせるの?』

シーナの目はそう語っていた。

(だったら――)

「どうすればいいの? ねぇ、シーナ。教えてよ……」

 すがるような思いでシーナに問いかける。

「国外に逃げよう」

 その答えはアーテナを驚かせるのに十分だった。

「……!」

 その時、シーナは何かの気配に気が付いたのか、人差し指を口に当てて静かにするように示す。

 コンコン

「どうぞ」

「あぁ、やっぱり警戒されているな」

「仕方がないだろう。それだけのことをしたのだから」

 入ってきたのは副団長とフォルスカー博士だった。

「こんな時間に何か?」

「そんなに警戒しないでくれ。俺達はアーテナを国外逃亡させようと思って相談に来ただけだ」

「「!?」」

 シーナとアーテナは顔を見合わせた。

「だから、そのナイフから手を放してくれると嬉しい」

「気付かれたか……」

 シーナは両手を上にあげて、ひらひらさせる。

「ありがとう。では、本題に入ろう」

「その前に……。何故、今?」

 そのシーナの質問に二人が顔を合わせて頷きあう。

「先程、アーテナの処刑日が明日の昼になったんだ」

「予定は最低でも今週末だったはずだ!」

「そう声を荒げないでおくれよ。そこの御嬢さんも起きてしまうよ?」

「では、その前に王国から出ろと?」

 今度はアーテナが博士たちに訊ねた。

「そうだ。そして逃げた後、魔法で作ったアーテナに似た人形を裁判にかけるとするよ」

「それでアーテナは死んだことにするわけですか……」

「そういうことになる」

(それが一番なのか、な?)

「シーナ、その話に乗るよ」

 シーナはこちらを見て強く頷いた。


「フロウ、本当にいいんだね?」

 王国前の森でシーナはフロウに再度訊ねた。

「うん。ついていく」

「そっか……」

 ……アーテナはもう死んだ。

 だから、ニーチェと名乗ることにした。

 服はいつもの白い鎧から青のチュニックとズボンになり、武器も剣から、以前使っていた槍に変えた。

(もうアーテナ=アイギス=ニーケはいないんだ……)

「ね、フロウ、ボク達をお姉ちゃんって呼んでみてよ」

 フロウの前に屈んでそんなお願いをするシーナ。

「……おねえちゃん?」

「かわいいな~、フロウは!」

 そして、そのままフロウを抱きかかえてしまった。

 この後、アーテナ達はまだ行ったことがない他国へ向けて歩いていくのだった。


 森に明るい笑い声の三重奏を響かせながら……。

今回で一旦終わりです。

今までありがとうございました。<m(__)m>

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