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ヴェイド  作者: 片桐渚
18/20

第十七話~生き地獄

このページを開いていただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。


良くなればいいなと思いながら、試験的に工夫しています。

違和感とならなければいいのですが……。

 今は丁度、昼の時間なのだが、空も国の雰囲気もどんよりと曇っている。

 シーナはフロウに付き添って、王国居住区の中でも人気がない所へ来ていた。

「おかあさん。わたし、がんばるよ」

 木の棒を地面に突き刺しただけの即席の墓標の前で手を合わせるフロウ。

 オーディスによる大量の骸骨兵による侵攻を撃退してから三日が経った。

 王国と公国の被害は計り知れず、死者の数は二国合わせて十万以上――これは全体の三分の一にあたる。

 建物も国全体の五割以上が全壊。

 気づけばフロウが横に立っていて、シーナの左手を握っていた。

「行こう?」

 そう言って、手を引っ張るフロウ。

「そうだね」

 そして、足は自然とアーテナのいる場所へ。

 今回、一番の原因はやはりというべきだろうか――アーテナだった。

 森から攻めてきた骸骨兵は数も多くて強かったらしいが、それでも、被害の比がアーテナと骸骨兵で八対二というのだから驚きだ。

 騎士団が弱いのか、アーテナ――いや、魔王が強いのか……。

 その魔王を召喚したオーディスも、騎士団長と副団長、フォルスカー博士の三人で追い詰めて行ったが逃げられてしまったらしい。

 だが、そうなるとどうしても出てくるものがある。


 ――責任問題だ。


 国民の大半が深い悲しみに暮れる中、今日も目の前にある王城には決して少なくない人が押しかけている。

「突撃の聖騎士を出せー!」

「フォルスカーとかいう博士もだ!」

「王は国民に謝罪するべきだ!」

「私の夫を返してよー!」

 抗議している内容は様々だが、結局の所は誰かに責任を取ってもらい、自分の気を収めたいのだろう。

(それもどうかと思うけど……)

 フロウは横で唇をかんで必死に耐えている。

 自然とシーナの左手を握る手に力が入ってきている。

(それに比べて、この子は強い……)


 シーナが特別訓練場から運び出されて、王城で目覚めた時にフロウから聞いた話は忘れられない。

「あのね、おかあさんがいたの……」

 王城へ避難する途中で母を見かけたフロウだったが、その母に骸骨兵からの魔法攻撃が降りかかろうとしていた。

 そこで、フロウを王城まで護衛する役を請け負っていた一人の騎士が、光の精霊をフロウの守り役にして、母の元へ行った。

「かべができて……」

 恐らく、魔法を防ぐために障壁を張ったのだろう。

 ――騎士の中でも特に魔法慣れしていないと魔法対応障壁は使えないから、かなりの実力者だ。

 それでも、数には勝てなかった……。

 魔法による風が吹き荒れた後、フロウの目の前にあったのは二人の死体。

 ショックは大きかったはずだが、泣きながら走って王城へ逃げた。


(この子は強いよ。本当に……)

 シーナは右手でフロウの頭を撫でた。

 そして、しゃがみ込むとフロウの頭までしっかりと包み込むように抱きしめる。

「シーナ?」

 シーナの目からこぼれる雫。

(ボクが絶対に守るから……)

 それは自分がフロウを守りきれなかった後悔から来るものだった。

「ううん、何でもないよ。行こうか」

 シーナはその雫を手で拭うと、フロウの手を握って再び歩き出した。

 二人は裏口から王城に入り、とある一室へ向かう。

 分厚い壁に四方を囲まれ、鉄格子がはまっている窓が一つあるだけの監獄のような一室。


 ――そこには、アーテナがベッドに寝ていた。

「アーテナ……」

 どちらが発したか、その言葉は部屋の中に吸い込まれるように消えていく。

「うぅ……」

 苦しそうに呻くアーテナの姿。

 あの日、フロウのレクイエムを聴いて寝た後から三日間、ずっと目を覚ましていない。

(寝ても地獄、起きても地獄……か)

 アーテナは処罰されることが決定されている。

 副団長とフォルスカー博士も処罰はされたが、元々の実益があるために処刑はできず、多額の罰金刑で済まされることになった。

 だが、アーテナはこの国に六人しかいない聖騎士。言い換えれば五人も代わりがいる役職の人間。

 シーナもその刑を決める会議に出たので必死に反論したが、シーナの言い分が認められることはなかった。

(死刑か……)

 しかも、この国の今の状態では王城前で公開処刑となりかねない。

『こうしないと国民を抑えられないんだ』

 国王や騎士団長から言われた言葉が今でも許せない。

 国に対する反論を抑える為にアーテナが利用されるなんて――そんなことがあっていいはずがない。

 一応、目を覚ましてから処刑は行おうという事になっているが、期限は一週間となっているし、それが途中でどう変わるかも分からない。

「アーテナ。ボクには何もできなかったよ……。ゴメン、ゴメンね……」

「シーナ……」

 心配そうにフロウが見つめる中、濡らしたタオルでアーテナの顔を拭きながら、何度もシーナは謝った。

 その日、王国には弱い雨が降り続いていた。

読了ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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