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ヴェイド  作者: 片桐渚
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第十五話~絡繰り人形

このページを開いていただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

『ボクがそのゲーツに勝つ方法を教えてあげるよ』


(本当に勝てるのでしょうか?)

 ――ゲーツが使ったあの謎のオレンジ色に光ったと思った直後に起きた一瞬の決着。

 それを目の前の突然現れたシーナという自分と同じぐらいの年の少年が勝てるというのは信じられない。

「あ、信じてないね」

 シーナは仕方がないかと呟くと、

「じゃあ、そのゲーツがやったっていう技を見せてあげるよ」と言って、アーテナから三十歩ほど離れる。

(そんな!? 私がどんなに苦労しても分からなかったものが……)

「この辺りでいいかな? じゃあ、行くよ?」

 前方のシーナの体の周りがオレンジ色に光り始める。

 ――それは確かにゲーツと同じ発光現象。

 そして次の瞬間、シーナがアーテナの目の前にいた。

(こんな事が……)

 アーテナは今まで、自分が積み上げた何かがガラガラと崩れ落ちるような気がした。

「どう? これで分かってくれた?」

「……どうして?」

「うん?」

「どうして、あなたはそんな簡単にやってのけるの!? 王国の人間でもなさそうな、あなたが!」


 ――アーテナは怒りよりも悲しかった。

 ――どうして自分にはできなかったのだろう。

 ――この力があれば、騎士になれたのに。


「どうしてよ!?」

 アーテナは悔しくて泣き崩れた。

(うぅ…………)

「知らないよ、そんなの」

 上から降ってくる冷たい言葉にアーテナは驚いて見上げる。

「ボクはこの技を父親達から覚えて、使うことを強要されただけ」

 人ではない何かと話しているかのような感情が一切無い声。

(私は機械と話しているの?)

 もはや、それがシーナから出された声だとは思えなかった。

「そこに理由も何もない。ただ、覚えるしかなかった」

(この少年は一体?)

 どんな過酷な生活をしてきたのだろうか――そんな疑問が浮かぶ。

(いえ、そんなことは些細な問題ですね)

「お願いします。ゲーツに勝つ方法を私に教えてください」

 アーテナは涙を拭うと、頭を下げた。

「分かった」

 ――そのお願いはあっさりと許可された……。


「まずは、魔力を認識する必要があるね」

 シーナの講義が始まった。

「ボクの自己強化の発光色は見えたんだよね?」

「自己強化?」

「そこからか……。魔法には種類があるんだよ。一番大まかな分類だと、回復・攻撃・自己強化の三つ」

 シーナは右手の人差し指を立てる。

「回復は文字通り、相手を回復させるもの。これは傷を治したり、魔力自体を回復させるものもある」

 次に、と中指も立てると、

「攻撃もそのままで、相手に攻撃する魔法。王国だったら、聖魔法とかいう浄化魔法なんかも入ると思う」

 そして、シーナは三本目の指を立てる。

「最後の強化魔法は属性によって効果がだいぶ変わってくるから説明が大変」

(それは説明が面倒という事でしょうか?)

とアーテナは思ったが、教えてもらっている身なので口にするのは控えた。

「まぁ、詳しいことは契約精霊から聞けばいいことだから。で、発光は見えたの?」

「はい。オレンジ色に見えました」

「そっか。じゃあ、この辺には精霊がいないみたいだし、少し森の奥に行こう」

 そう言って、シーナは木々の合間を縫うようにして駆け抜けていく。

(は、早い……。こんなにも実力が違うのですか?)

 アーテナは追い付こうと必死に走るが、速度が違いすぎて、互いの距離は離れるばかりだった。


「はぁはぁ……」

 アーテナがシーナに追いついたときには、もう既に息が上がっていた。

「あれ? これでも、かなりゆっくり歩いたのに」

「歩いた? 走った、の間違いでは?」

(それに、これでゆっくりというのは……)

「歩きだよ」

 こんな短距離で走りなんてしないよ、と続けてくるシーナをアーテナは恐ろしくなってきた。

「さて、周りを見てみてよ」

「周り……?」

 同じ森の中なので木々に囲まれているだけで、特に変わっているものは無いように思えた。

「感じ取れないか……。じゃあ目を閉じて深呼吸しながら、森の音を聞き取るようにして」

 アーテナは言われたとおりにしてみる。

「いいよ。目を開けてみて」

 そして、目を開けると景色がまるで違っていた。

 赤・青・黄・緑・燈・藍・紫の色の光球が辺りに舞っている。

 そして、もう一色――他よりも一際輝いている、白と黄色を混ぜたような光球があった。

「その分だと、精霊がきちんと見えたみたいだね」

「精霊……」

 ――聞いたことはあるが、一切教えてもらえなかったその単語。

「自然、魔法とか全ての源とでも考えればいいんじゃないかな?」

 その大雑把な説明に肩が落ちる気分だった。

「とりあえず、契約精霊になってと頼んでみれば?」

 これだけ多くいれば、誰かはアーテナを気にいるでしょ、と言ってくるシーナ。

「私の契約精霊になってください!」

 アーテナは精霊達に向かって、声を上げて頼んだ。

 すると、先ほどの一つの一際明るい光球がアーテナの元に舞い降りてくる。

「へ~、光精霊か……。やっぱり、子供でも騎士は騎士なのかな?」

『私でよろしいですか?』

「よろしくお願いします」

 直接頭の中に響くような声の主――に向かってお辞儀した。

「ちなみに発声はいらないけどね」

「もっと早く言ってよ!」

 そんなことを言ってくるシーナに、アーテナは怒鳴ってしまった。

「それでいいよ、アーテナ。敬語なんて要らないよ」

「じゃあシーナは笑ってよ」

「それは……無理だ。ボクは、表情を無くすことを教育され続けてきたから……」

「ごめん」

 なんだか申し訳なくなってきた。

「いや、いいんだよ……」

 無理やり笑った風を装うシーナの努力が、余計にアーテナの心を締め付けるような感じがした。

「じゃあ、後は精霊が魔力の使い方を教えてくれるよ」

 長い沈黙の後のシーナの一言。

(え?)

「どこか、他国に行くの?」

「いや、行かないけど……」

 シーナはそう言って顔を伏せる。

「ボクと関わるとロクなことにならない。ボクは――だから……」

 小声過ぎて、聞こえないところがあったが、それでもアーテナは構わなかった。

「構いません! 私とお友達になってください。そして――」

 赤面しながらアーテナは、次の言葉を必死に紡ぐ。

「私の将来のお婿さんになってください!」

「……………………」

 お互いに一言も発しない長い沈黙。

「くっ、ははっ!」

 シーナが笑い始めた。

(笑うなんて酷い!)

 アーテナはシーナを睨みつける。

 その視線に気づくと、シーナは笑いを止めた。

「いや、ごめん。ボク、女なんだ……」

「…………え?」

 しばらく、何を言われたのか全く分からなかった。

 そして、その言葉を理解した時、さらに赤面した。

「ごめんね? ボク、中性的だって言われてはいたんだけど……。まさか、ここまで本気で勘違いする人がいるとは……」

 目の前にいるのは、少年と言っても疑わないほどの美少年。

 ――いや、女と言っているのだから、美少女か……。

(そうだよね。シーナって女性の名前だよね……)

 今更ながら気づく事実。

 アーテナは足から力が抜けてしまった。

「そんな……」

「本当にごめん」

 頭を下げて謝ってくるシーナ。

「……じゃあ、私と友達でいよう?」

 驚いた顔をするシーナ。

「それならいいでしょう?」

「でも、そうなると……。その前にゲーツに勝たないとだよ?」

「え? シーナが私に教えてくれればいいんでしょ?」

「……畏まりました。お嬢様」

 腰を曲げて、手を伸ばしてくるシーナ。

「もう、シーナったら」

 そう言いながら、シーナに手を引っ張ってもらって立ち上がる。

「「ははっ」」

 立ち上がった後、なんだか気分がよかった。

 ふと見れば、シーナも笑っている。

(なんだ、自然と笑えるんじゃない)

 その言葉通りに、アーテナはシーナと精霊から魔法や剣術について教えてもらってゲーツに勝った。

 八歳となった時に数少ない女性騎士となるが、周りからの嫌がらせが多く、それに負けまいと更に鍛えて行った末に、十歳でアーテナは聖騎士となった。


 そして今――アーテナとシーナが王国商業区の大通りで対峙する。

読了ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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