第十四話~打ち合い
このページを開いてくださりありがとうございます。
少しでもお楽しみいただければと思います。
ここはスクワート近郊の森――
一人の少女が手の指ほどの細さしかない木の枝に座っていた。
そこは地上から十五メートル以上、木の枝が折れて落下するようなことがあれば、骨折を免れないような高さだった。
「何がしたいんだろう?」
しかし、そんなことは全く気にすることなく、地上部を眺めて呟いた。
その少女の視線の先にはゲーツに敗北してからも時間を見つけては森で木の棒を振り続けていたアーテナがいた。
「恐らくは剣の型――鍛錬なのではないか、と」
「そう、だよね」
呟きの解は、少女の横からもたらされるが――そこには誰の姿もない。
(なんで、あんなに不揃いなんだろう?)
振っているのが木の棒ではあるけれど、剣の型としては完成されているし、振る速度も悪くはない。
それなのに、アーテナの素振りはどこか強烈なズレを少女に感じさせる。
(確かめてみるかな?)
少女は指を二本立てて、軽く手首を回す。
――それが、印だった。
「何でしょうか?」
灰が集まるように静かな黒い魔力が渦巻く。
そして、そこに床でもあるかのように跪いて頭を下げる一人の初老の男性が現れた。
「ねぇ、スカット。木刀持ってる?」
「こちらに」
「ありがと」
スカットと呼ばれた男性から、短い言葉と共に差し出された、二振りの木刀を確かめるようにして握る。
無ければ木を削ろうと思っていたが、それをする手間が省けた。
「ちなみに、なんで持っているの?」
こんなものは持っている必要がないし、持っているのが不思議だった。
「さぁ、何故でしょう?」
(……ま、いっか)
「借りてくよ」
少女は座っている木の枝を木刀と共に握ると、ヒラリという効果音がぴったりなほど、風に舞う布のように回りながら地面に降りて行った。
「……」
建物四階分にもなる高さからの着地にもかかわらず、一切音を立てずに、低いところから降りた時と同じように降り立つ。
「驚きですね、あのお嬢様が興味を持つとは……」
その姿を見ていたスカットは、降り立つ直前に少女が興味を持った事に内心喜んでいた。
「まぁ、あの木刀はつい先ほど作ったものだという事は黙っておきましょう……」
そして呟きと共にひっそりと消えて行った。
少女は、アーテナに近づくと、その目前に木刀を一振り投げる。
「これは?」
突然、目の前に投げられた木刀に驚くアーテナ。
「君は剣の鍛錬をしている。ボクは木刀を持って来て、君に一振り投げた。……なら、やることは一つ」
「そうかもしれませんね。しかし、名前も名乗らないのはいかがですか?」
(なるほど。名前か……)
「ボクの名前はシーナ=デュレットだよ」
名前を名乗れと言ってくるアーテナに対して、少女は偽名を答えた。
「アーテナ=ニーケです。よろしくお願いします」
「じゃ、早くやろうか」
今まで、わざわざ名前を名乗るという事をして、剣を交えたことはなかったシーナは、アーテナを急かす。
「わかりました」
それでも、あくまで丁寧さを忘れずに両手で木刀を持ち、体の中心に持ってくる。
(型は普通……。様子見かな?)
シーナはアーテナの構えを見ながら、利き手とは逆の左手で木刀を持ち、右半身を後ろに引く。
「!?」
その構えにアーテナは驚きをみせる。
(初見か……)
しかし、すぐに表情を引き締めると、シーナへ攻撃を仕掛けてくる。
袈裟切り、逆袈裟切り、横一文字。……どれも型通りの攻撃だった。
シーナは木刀で上手く攻撃を受け流し続ける内に、アーテナから得た違和感の正体が分かってきた。
(型通り過ぎて、中身がないのか)
アーテナの攻撃は、正確でまるで芸術のようだった。それで技術があるように見えるが、型を真似ただけ。
そして、もう一つ――怒りの感情。
(八つ当たりか?)
木刀を叩き壊したいと思っているのかと思えるような荒い攻撃。
つまり、表面上の型こそ正確ではあるが、それを生かすことはできてないし、感情任せに振っているだけ。
――それこそが、シーナが得た違和感の全てだった。
(殺してしまうのは楽だけど……)
アーテナがどうなろうと良いはずなのに、何故か興味が湧いた。
シーナはアーテナの攻撃を強く弾き、胴体ががら空きになった隙に木刀を首へ押しつける。
「ボクの勝ちだね」
「私は、負けるわけにはいかないのです!」
よほど悔しいのだろう。こちらを睨みつけながら、そう答えてくる。
「でも、木刀はキミの首に当たっている。キミの負けだよ?」
「それでも、負けるわけにはいかないんです!」
「どうして?」
シーナはそこまで勝ちにこだわる理由が気になった。
「それは私が騎士になるためです!」
父親の処遇やゲーツとの一戦を聞いたシーナはアーテナにすっかり同調していた。
(そっか。ボクと同じ、親に強制で叩き込まれている者なのか……)
「ボクがそのゲーツに勝つ方法を教えてあげるよ」
自信たっぷりにシーナはそう言った。
読了ありがとうございます。
本当は一話で過去編を終わらせるつもりだったのですが、二話にまたいでしまいました。
次もよろしくお願いします。