第十三話~戦線復帰
このページを開いてくださりありがとうございます。
今回はシーナの回です。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
シーナは目が覚めた時、白い天井とそこにぶら下がる大きなシャンデリアが見えた。他に真っ赤なカーペットと白い壁紙。そして、壁際に飾られた名剣や甲冑の数々。ここはスクワート王城の大広間だろうか?
辺りには多くの騎士や国民がシーナと同じように横になっている。
中には腕が無くなっている重傷者もいて、回復魔法使いが慌てず、しかし、手早く治療に当たっていた。
「あぁ、目が覚めましたか」
そんな風に周りを見渡していると、魔法使いから声をかけられた。
白色のマントに身を包み、長い杖を背負っている、若い青年の魔法使いだった。
「体の調子は大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫です」
「そうですか。それは良かった」
まあ、あなたの場合は魔力の大量使用が原因ですけどねと青年は笑って付け加えてくる。
――魔力の大量使用。
その言葉に、シーナはアーテナとの一戦の後の事を思い出す。
「アーテナはどうなった?」
自分がアーテナの背中に撃ったあの一発。
そして、戦闘フィールドから運ばれる時、魔法使いに眠らせられる直前に見た、アーテナの体に魔王の魂の結晶が入り込んでいく光景。
どうなっているのかは想像がついていた。しかし、信じたくないという思いがあった。
「それは…………」
質問をした途端に、男性の顔がはっきりと分かるほど暗くなって押し黙ってしまう。
「アーテナはどうなったんだ!?」
「王国内を破壊しまくっていたよ。聖騎士五人で対応しているが、抑えるのがやっとだそうだ」
必死に青年から聞き出そうとするシーナに、別の男性魔法使いが答えた。
「そ、そんな……」
(ボクが感情的にならなければ、こんなことにはならなかったのに……)
「シーナ?」
悔やむシーナの元へ聞き覚えのある声の主が近づいてくる。
「やっぱり、シーナだ!」
「……フロウ? どうしてここに?」
それは、騎士に預けたはずのフロウだった。
周りを見るが、騎士が付いているようには思えない。
(皆、対応に追われていて、それ所では無いか……)
その代わりなのか、光の精霊がフロウのそばにいた。
「あのね…………」
そう言って、泣きそうな顔になるフロウにシーナが慌てる。
「ど、どうしたんだ? フロウ?」
「う、う……。うわ~~ん」
(一体どうしたんだ?)
仕方がなく、シーナはフロウを胸に抱いて、泣き止むまで待ってみた。
そのまま十分ほどして、
「ひっぐ、ひっぐ……」
しゃくりあげながらも語られた、その残酷な事実にシーナを含め、周りにいた人全員が驚いた。
「そんなことがこの子の前で起きたのか……」
魔法使いの口から洩れる、そんな言葉もシーナは仕方がないと思った。
(ボクもこんなところにずっといられない!)
「すみません。この子をお願いします」
シーナはフロウを魔法使いに託して、アーテナの元へ行くことを決める。
「シーナ、いっちゃうの?」
「うん、行かないといけないんだ」
「かえってきてね?」
フロウは見上げて、心配そうに言ってくる。
「大丈夫! ボクは絶対帰ってくるから、さ」
だから安心して待っていてね、とフロウの頭を撫でながら語りかける。
(まずは商業区か……)
シーナは王国から走って出ていく。
(騎士と公国の魔法使いが合わさってもこれか……)
シーナが商業区の大通りにつくと、骸骨兵と戦っている騎士達がいた。
戦術は騎士が障壁を張って敵の周りを囲い、魔法使いが障壁の中に火属性魔法を唱えるという、いたってシンプルなものだった。
シンプルゆえに効果は高い――のだが、今回は敵の数が多すぎた。
道幅が六メートル以上あり、馬車が二台すれ違うことができるほどの道に雪崩れ込むようにしてやってくる大量の骸骨兵。
魔力消費量が大きすぎて、皆が肩で息をしている。
中には、吐き気を催している者もいて、魔力が枯渇しつつあることを示していた。
(これは勝てるのか……?)
シーナは既に戦意が落ち始めていた。
そんな時に、大通りを駆け抜ける黒い魔力の奔流。
シーナは近くの建物の屋上に飛び跳ねて、ギリギリでそれを回避する。
――その一撃は骸骨兵や騎士達、全てを薙ぎ払った。
砂埃が舞う、深く抉られた大通りの向こう側にあるただ一つの影……。
(ボクが言えた義理じゃないかもしれないけどさ……)
魔力の余波で端が破れたローブをはためかせながら、風の身体強化をかけて建物の屋根の上を走り渡る。
(それじゃあ、五年前と同じ、感情に身を任せた攻撃だよ……?)
シーナは静かに、その影の前へと舞い降りると両手でナイフを抜いた。
「ねぇ――」
そして、砂埃が消えると、鎧を赤黒く染めたたった一人の友人の姿が現れる。
「――アーテナ」
読了ありがとうございます。
予想よりも何故か伸びそうな気配ですので、もうしばらくお付き合い願えればと思います。