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ヴェイド  作者: 片桐渚
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第十二話~敗北

このページを開いてくださりありがとうございます。

少しでも楽しんでいただければと思います。

 アーテナは夢を見ていた。

 それは辛く、哀しい記憶……。

「わたしにもけんをおしえてください」

 きっかけは食卓で放った、その一言だった。

 アーテナは三人兄弟の一番下で長女。

 その彼女が五歳になった時、父に学んで上達していく二人の兄を見て、自分もなりたいと思ったのだった。

「駄目だ!」

 しかし、父親から放たれたのは冷たい否定の言葉。

「なぜですか、おとうさま?」

 それでも、アーテナは両親から教え込まれた礼儀だけはきちんと守って、静かに訊ねた。

「何故も何も、お前に教える剣技などない!」

「わたしもおとうさまのような、きしになりたいのです。おしえてください」

「五月蠅い! 女は大人しく貴族に嫁ぐために必要な事さえ学んでいればいいんだ!」

「……………………」

「返事はどうした!」

「……はい」

「よし! お前たち行くぞ!」

「「はい!」」

 はっきりと言い切られてしまい、アーテナは引き下がるしかなく、返事と共に頷いた。

 そんなアーテナを見て納得したのか、二人の兄を連れて食卓から去って行く父親。

 だが、女だから駄目だと理由はどうしても納得できず、例え自分一人であっても諦めずに剣を学ぶという思いだけが残った。

 それから毎日、荷物の陰に隠れて国外に出ると、森で素振りを始めた。

 木に囲まれていながらも、そこだけが平坦で、剣を振るのにもってこいな場所。

 近くにある川の水が流れるサラサラという音を聞きながら、拾った木の棒を振り始める……。

 思い描くは――たった一度だけ見た父親の剣の動き。

 怪我をしたら感づかれると分かっていたから、マメ一つ作るわけにはいかない。

 ――そんな、アーテナの思いが届いたのか、半日近く素振りをしても、怪我どころか筋肉痛にすらなることはなかった……。

 コンコン。

「アーテナです。お話があって参りました」

 それから一年半が経って――七歳となった、ある日の朝、父の書斎に行く。

「入れ」

「失礼します」

 部屋のドアを開けると、両側にある本棚にびっしりと詰まった本とインクの独特なにおいがしてくる。

 そして、前方には父が赤に金色で装飾された豪華な椅子に座って書類をまとめていた。

「何の用だ?」

 その冷たい印象を抱かせる言葉に、早くも引き下がりたくなるが、自分を奮い立たせて告げた。

「私を騎士にしてください」

「駄目だと言ったはずだ!」

 威圧感全開のはっきりとした否定の言葉。

 そう言われることは分かっていた。だからこそ――

「私と剣術で戦ってください。それで勝ったら私が騎士になることを認めてください!」

「本気で言っているのか?」

 どこか訝しむような父の顔。

「はい」

「いいだろう。ならば、ゲーツと戦え」

 ゲーツは、アーテナの三歳上の次男だ。

「わかりました」

 アーテナにとっては、戦闘が認められただけでも十分だった。

 家の庭に出てしばらくすると、ゲーツがやってきた。

「では、本当なら一本勝負で十分だと思うが、三本勝負でやるとしよう。構えろ」

 その父親の言葉に気を引き締め、木剣を強く握る。

「始め!」

 まず一本目はアーテナはゲーツに向かって、袈裟切り、逆袈裟切り、横払い――様々な形を使って果敢に攻めて行った。

 そして、上段から剣を振り下ろすと見せかけての首への突きが決まった。

「一本目、アーテナ」

 父が悔しそうな顔でそう告げた。

「おい、ゲーツ!」

 父からの一喝に、ゲーツが父を見て頷く。

「では、二本目――構え」

 何かをしてくるに違いない。だが、絶対に負けないという意志の元、木剣を中段に構える。

「始め!」

 二本目は後手に回り、ゲーツが何をしてくるつもりなのかを見ようと思った。

 ……が、しかし、ゲーツの体がオレンジ色に光ったと思った次の瞬間には、アーテナはゲーツによって首筋に木剣を突き付けられていた。

(な、何があったんだ?)

「二本目、ゲーツ!」

 さも当然のような顔をする父に苛立ちを覚えながらも気持ちを抑える。

(目に見えないような速さの攻撃なんて……。まるで稲妻が走ったみたいだ)

「三本目――構え!」

 そんな感想を抱きながらも、再び剣を構えるが、

「始め!」

 その言葉の直後に、試合は決着していた……。

 ――もちろん、アーテナの敗北で。

「分かっただろう? お前に騎士など無理だ」

 父の言葉が地面に座り込んだアーテナに降ってくる。

「私は一本目取りました! それに、二・三本目はゲーツお兄様が何か剣術以外のものを使っているように思えました」

 アーテナは必死に反論する。

「そんなものは使っていなかったぞ!」

「しかし、確かに……」

「じゃあ何を使ったというんだ? 言ってみろ!」

「え……と、ゲーツお兄様の体がオレンジ色に発光して、直後にありえない速さで一本を取られたのです」

「ありえないだと? 何もありえないことなどなかった。……これからは、本格的に勉強をするんだな」

 そうすれば、騎士になりたいと思わなくなるだろうと言って、父は去って行った。

 未だ、首筋に残る木剣を突き付けられた時の感触。

 その後、アーテナに対する教育は厳しくなる。

 だが、絶対に騎士になる、剣術で勝つという事が執念のようにアーテナの心に居座っていた。

読了ありがとうございます。

@残り少しで終わりかもしれませんが、よろしくお願いします。

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