第十話~解放
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「……そっか、そうだよね。君達がいるからこんなことになるんだよね? 全て、君達のせいなんだ……」
混沌とした特別訓練場の中央で、一人――シーナは笑って、そう呟くと、レイピアを腰の鞘に納めた。
アーテナは魔法構築の配置につく間、ずっとその姿を眺めていた。
(これは危ない……)
集団障壁――ファランクスの詠唱開始の指示を待つ。
その間、頭の中では警鐘が鳴り響いていた
「詠唱開始!」
「そうはさせませんよ。行きなさい、私の下僕達よ!」
「公国魔法使いの名において、守り抜けー!」
団長は騎士団に詠唱を開始させる。
ローブを着たモンスターは死者を操って、騎士団の詠唱の阻害しようとする。
フォルスカーは魔法使いと共に、火属性魔法で敵を燃やして数を減らし、騎士団の詠唱時間を稼ぐ。
「そう、君達が悪いんだ……。消えちゃえ、全部……」
シーナは空いた右手で銃を取りだし、
「全魔力装填――フルロード……」
両腕を肩の高さに広げる。
「恍惚の弾丸――トランスバレッド」
死者の軍団の中に飛び込んで、回りながら乱射した。
火・水・雷・土・風・氷・光属性の魔力を圧縮した弾丸は、放射状に広がっていき、死者達を次々と消し去っていく……。
その光景は、まるで虹。シーナの二つ名――七色の放撃手をよく表していたのかも知れなかった……。
――だが、その美しさも過ぎれば、ただの狂気。
「おい、あの砲撃はいつ終わるんだ?」
騎士団のファランクスの詠唱が終わるころには、シーナの砲撃によって、死者は敵の本体を守る、ごく少数だけとなっていた……。
それでも、シーナは回り続けながら砲撃を続ける。
その弾丸は、アーテナや公国の魔法使い達を守る障壁にも襲い掛かる。
「クッ、誰かあいつを止めろ!」
「そうだ! このままだと俺達までやられるぞ!」
「それ以前に、この魔力使用量だと、あいつ死ぬんじゃないか?」
――最後の一言が、アーテナの耳にも届く。
(確かに……。だが、どうやって止める……?)
「はぁ……。いきなり乱射し始めたと思ったら、ただの混乱――トランス状態ですか、愚かな……」
今まで身を守っていた死者達が消し去られると、反撃とばかりにローブを着たモンスターは手らしきものをシーナへと向ける。
アーテナは、障壁の維持を捨ててシーナの元へと全力で駆けていく。
「シーナー!!」
「死になさい……」
闇の魔力の波動がシーナへと襲い掛かる。
(間に合わない……)
そう踏んだアーテナはある魔法を詠唱する。
「我は汝の身代わり、盾と成す! サクリファイス!」
――それは、聖騎士のみが使える、自分が近くにいる対象者の前に転移して庇う、自己犠牲の魔法。
そして、前方からは闇の魔力の波動。後ろからはシーナの魔力弾がアーテナに襲い掛かる……。
「アーテ……ナ?」
自分の攻撃を受けて、倒れるアーテナの姿がシーナの目に、はっきりと映った。
「どう……し、て?」
「私は騎士だ。だから……な、いつだって、守り通すんだ……」
後ろにいるシーナに向かって、笑って答えながらも、足から力が抜けていく。
「アー、テナ……。アーテナー!」
「シーナが泣くなんて久々に見たね……」
……トサッ。
「アーテナー!!」
「早く、あの放撃手を下げて治療しろ! そして、この場からできるだけ離しておけ!」
「イヤだ、嫌だよ! アーテナー!!」
静かに崩れ、フィールドに横たわるアーテナを見て、泣き叫ぶシーナを騎士団と公国の魔法使いたちが協力して、その場から引き離しにかかる。
「さて、と……。そろそろ決着にしようか? 魔王の右腕――いや、オーディス」
「おやおや、お怒りですか? 確かにこの方に当たりましたけどね、勝手に当たりに来たんですよ?」
アーテナは霞み行く目で団長・副団長がローブを着たモンスターと対立しているのを見た……。
「そうかい。で? そいつをどうするつもりだ?」
「そうですね……。とりあえず、この方は結構な魔力の素質を持っているみたいですからねぇ」
凄みをきかせて訊ねる副団長に対して、オーディスは気にすることもなく、ポケットから正八面体の結晶を取り出す。
「この魔王の魂を入れてみようかと……」
「何!? 何時の間に?」
驚く副団長を見て、手に入れた結晶を見せびらかすようにしながら笑う。
「転移させられる直前に手に入れましたよ?」
「…………」
「おっと、動かないでくださいね? ここには、私が不可視の魔方陣を密かに張り巡らせましたから」
「チッ」
「では……」
動けない団長達を前にして、オーディスはアーテナを掴んで後方へ跳ぶと、魔王の魂が入ったという結晶をアーテナの胸に押し込んだ。
「チキショウ!」
アーテナは、朦朧としていた意識が痛みによって、一気に覚醒した。
「うわー!!」
今までに経験したことがないような激痛にアーテナはのた打ち回る。
そして、アーテナは再び意識が沈み込められるような気がした……。
「これで魔王が仮復活ですかね?」
そう呟くオーディスを目の前にして……。
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