第九話~決闘
今回はアーテナとシーナの戦いです。
細かい時間を見つけて執筆してみました。
少しでも、楽しんでお読みいただければ幸いです。
(舞台は整えたよ。だから、全力でやろう?)
前方に立つシーナの目はそう語っている。
アーテナはここに来て、ようやく、武器が真剣である理由がわかった。
(全て、お前が立てたシナリオなんだな?)
回復魔法使いが数人いるということは、回復の特級魔法である、蘇生魔法が可能……。
つまり、どちらかが負けを宣告するか、戦闘不能になるまで続くということ。
――もはや、模擬試合ではなく、決闘だ。
しかしアーテナの中には、未だ悩みが巣食っていた。
(何の為に、こんなことをしたんだ?)
その悩みが、アーテナの動きを鈍らせる。
両者は試合フィールドの中央を挟んで、十歩ほどの距離に立ったまま動かない……。
『両者睨みあったまま一歩も動きません。初手はどちらが打つのか~!』
実況以外は無言の静かなフィールド……。
それにシーナが終止符を打った。
マントから素早く取り出した三本のナイフをこちら目掛けて投げつけた。
おそらく毒が塗ってあるだろう、そのナイフをアーテナは身体を捻って避ける。
しかし、そんなことは予想通りと言わんばかりに、シーナはレイピアを抜き突撃してくる。
――雷の身体強化をかけた状態で……。
身体強化の雷は効果時間こそ短いが、加速量は大きい。逆に、風は加速量が雷より少々落ちるが、効果時間は長い。
そのどちらかで来ることは予想通りのはずの攻撃だったが、その速度に驚きを隠せなかった。
まるでシーナ自体が雷となったかのような突撃――
「フレッシュ!」
それをアーテナは盾で正面から受けさせられる。
細身の剣の突撃と盾がぶつかると、普通は剣が折れて終わるが、シーナの一撃は違った。
(盾が押される!?)
走力だけではなく、武器も魔法によって強化された一閃――それは、盾にしっかりと重みを伝えていた。
剣と盾の衝突によって、周りに弾ける火花……。
「本気で来て! アーテナの全力を見せてよ!」
バチバチという音の中、シーナの声が聞こえてきた。
(もう試合は始まっているんだ、悩んでどうする!)
「我を守れ! プロテクト!」
盾でシーナの突撃に耐えながら魔法を詠唱して、盾の強度を上げる。
「我は鏡、全てを跳ね返せ! リフレクト!」
続いて魔法を詠唱する。
その効果は、盾の表面を相手に受けた攻撃を衝撃波として跳ね返す、特殊な障壁で覆うというもの……。
シーナは攻撃が反射される前にレイピアを引いて、右へ飛ぶ。
……盾の前には衝撃波が吹き荒れて、地面が扇状に大きく抉れていた。
だが、それに動揺するような対戦相手ではなく、すぐさま左手で銃を抜き、両肩、両膝にある鎧の隙間を狙い銃弾が放たれる。
避ける事も叶わず、痛みに耐えながらも、盾をシーナに向けて構え直し、雷の身体強化が切れる瞬間を狙って、風の自己強化をかけて突進する。
シーナはそのタイミングを上手くつかれた事に焦るが、レイピアで突進してくる盾を左にずらして、直撃を避けようとしてくる。
しかし、レイピアで盾を弾いたことによって、お互いに体ががら空きとなる。
――刹那、アーテナが右手に持つロングソードで右上段からの袈裟切りをして、シーナは左手に持つ銃でアーテナの右腹部を撃った。
お互いに決して軽いとは言えない傷を負って出血も多いが、まだ戦う気を失っておらず、次の一手を打とうとしていたが、突如、フィールドに大きな転移用魔方陣が描かれ、光り出した。
――そして、大量の骸骨兵達が見知った顔と共に転移してきた。
「なんで、こんなに人がいるんだ! ここは滅多に使われないのではなかったのか!?」
「俺だって聞きたいぐらいだ! これは一体?」
転移してくると同時に問答を始めるフォルスカー博士と副団長。
「まさか、こんな所に飛ばされるとは思いませんでしたが、これはこれで面白いですねぇ」
一方で喜ぶようにする、森で出会ったローブを着た魔王の配下のモンスター。
突然の事に、元からいた人達はしばらくの間、何が起きたのか判断をつけられずにいた。
「王国騎士全員に告ぐ!」
その中で、一番早く動いたのはアーテナの父親でもある、王国騎士団長だった……。
特別観戦席から立ち上がると、隣でポカンとしている実況者からマイクを奪い取って指示を出した。
「第一級緊急事態だ! 大至急、国民の避難を最優先に集団障壁――ファランクスの構築にかかれ!!」
「「「ウワ~ッ!」」」
その言葉に、それぞれが我を取り戻し行動する。
戦闘を始める転移してきた者、一斉に逃げ出す観戦者、避難路の指示・魔法の構築を始める王国騎士。
もちろん、アーテナも魔法構築のために動き出す。
そんな中、一人だけ笑いながら立っている者がいた。
……シーナだった。
「ボクの折角の企画が……ハハッ、可笑しいな。こんな筈じゃなかったのに……」
周りが喧噪で包まれている中、そこだけが異様な雰囲気だった。
「ボクの、ボ、クの……が……」
上を向いて笑っているその姿は、とても脆く壊れやすい様に感じた。
読了ありがとうございます。
次回はこのまま続いていく予定です。
……もしかしたら、突然、公国に戻るかもしれませんが、恐らくないでしょう。
これからも、ヴェイドをよろしくお願いします。<m(__)m>