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LOVE OF BLOOD  作者: hisa
39/56

<39>この場所に宣誓

 全身が心臓になってしまったのかと勘違いしそうなほどの動悸。全身から噴出す汗は、まるでサウナの中にいるようで。吐き出す呼気は、これでもかってほど激しい。

 でも、もの凄い充足感だった。

 カイトは荒い息を吐きながら、滴り落ちてくる額の汗を乱暴に片手で拭う。あの、上り坂までもを疾走した。諦められない気持ちを抱えて、焦がれる想いを糧に死に物狂いに。今まで溜め込んでいた不安や孤独、苛立ち全ての感情が疾走と共に新しい感情に柔軟に作り変えられる。そんな感じに、走り切ることに意味があると思った。

 禁忌に、不道徳に、背徳に、そして自分自身の臆病さに。負の要素は、カイト自身の中で作り変えられるものだから。世間での見解なんてもう、気にしていられない。誰彼の意見なんて、これっぽっちも必要としないのだから。

 大事なのは、カイト自身の気持ちに、ユウの気持ちだ。ただ一目散に、この場所を目指して疾走して感じた気持ちが大事なことだ。

 固めた握りこぶしに力を入れて、カイトは丘の上の公園に足を踏み入れた。


 三年ぶりに訪れた。あの頃と変わらないまま、あの約束の場所はひっそりと、だけどカイトのことを待ちわびてもいたかのように受け入れる。広がる眼下の夜景に、そんな風に思えた。胸の中にそっと広がる感傷。けれど、思ったよりは平気だ。

 もう、二度とこの場所へは来れないと思っていた。あまりにも切な過ぎる記憶に、きっと耐えられないとも思っていて。見上げるツリーは今でもあの頃と変わらず、夜景という煌びやかな電飾を背負ってカイトの前に立ちはだかっている。あの頃と変わらぬまま美しい、荘厳な存在感でもってカイトを圧倒する。


 やっぱりユウと一緒に見たい。


 心の奥底からそう願う。カイトは、そよぐ風に身を晒しながら尊ぶべき存在を敬服の眼差しで、自然に出来上がったツリーを見上げていた。

 こんなに素晴らしい光景だから。一番大事な人と見上げたい。そして、一緒に感じたい。ありのままの感情を、隠すことなく、他人から蔑まれることなく。しっかりと手を繋いで。


「一緒に」


 言葉にすれば、より叶えられそうな気になる。微妙に置かれた距離がなんだ、それでも俺はユウの傍に一生いたいんだ。

 開き直る。なんだか、とても清々しい気分だ。

 走る風。そよぐ葉。零れる光彩。ここには、こんなにもカイトの心を励ますものが溢れていて。今まで恐れていた過去が、本当の過去に変わって行く。きっと、もう、悪夢にうなされる事はなくて。過去を認めて今を生きる。だからこそ、また頑張れるのだろう。

 諦められる程度の気持ちだったら、過去から逃げることもなかったはずだから。遠回りした分だけ、本気なのだ。諦めることができなかったから、こうして今、この場所にいる。


「絶対、連れてくるからな」


 カイトはツリーの幹に掌を押さえつけて誓う。ツリーへの宣誓。

 過去の悲しい記憶を埋め替える。独りで、寒さと心細さに震えながらクリスマスツリーを見上げた記憶を。不安に押しつぶされそうで、大切な存在が離れていく恐怖の記憶を。この場所からやり直して、全部幸せな記憶に塗り替えてみせる。

 今までだって、今まで以上にユウのことを想っているから。

 双子で、同じ血が流れていて幸せになんか出来るわけない。そんなの、世間が敷いた倫理だ。双子で、同じ血が流れていても、こんなにユウのことを想っているのは世界中を探したって自分しかいないとカイトは思う。だったら、ユウのことを世界一幸せに出来るのは自分しかいないわけで。それが、カイトの出した結論。


 ユウの反応を恐がっている場合じゃないって気が付いたから。避けられても、退かれてもそれは至極当然のこと。だって、血が繋がった双子だから。だけど、それでも好きなんだから、胸が軋むほど愛しいのだから仕方がないじゃないか。

 嫌われたって、こっちを振り向かせてみせる。

 カイトはツリーを見上げ、きゅっと口角を上げた。幹に触れた掌が、ほんのり、温かかった。

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