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LOVE OF BLOOD  作者: hisa
33/56

<33>悪夢から続く現実

寝苦しい夜じゃなくとも、軽いうたた寝の時だって、悪夢を見ることはある。誰にだってそんな経験はあるはずで、それはカイトだって例外ではない。

 ただ、例外なのは同じ夢を繰り返し見ることだろう。

 今日もまた、ほんのうたた寝だった。

 大学から帰り、居間のソファに軽く寝転がって、帰り掛けに買ってきた雑誌をペラペラ捲っていた。連なる文字は流すだけにおさめて、カラーの写真ページだけを飛ばし見したりして、ユウに似た子が載ってたりすると少し狼狽する。なんてことをしているうちに、いつの間にか、とろとろと半睡状態に陥っていた。

 夢の中で、これは夢だから、何でもないそんなことないと言い聞かせる。言い聞かせるようにして飛び起きて、そしてこれが現実なのだと思い知る。悪夢から続く現実。カイトにとって、今もその夢も現実以外のなにものでもなかったのだから。

 嫌な汗を全身に纏い、どれほど自分の心と体がその現実を拒んでいるかが分かる。だけど、そればかりは変えようもない現実で、また事実であるから、いつまで経ってもカイトは夢をみる。

 あの日の夢を――



 かちり、と小さな音がして、玄関口に人の気配。

 ユウが帰って来た。未だに薄れることない双子のシンパシー。夢で乱れた心拍数が更に散り散りに乱れ、このまま止まってしまうのではないかと思う程。

 少し落ち着こうと、深く深呼吸をして、気持ちを誤魔化した。


「おかえり」


 何事もなかったかのように、ユウを迎えた。双子のユウでも欺けるくらい自然に。


「ただいま」


 浮かない表情のユウはそっとカイトから視線を逸らした。手にしたカバンをきつく握っている。

 頑なな態度。解かれない警戒心。空気中を漂う粒子のように纏わりつく拒絶の壁。

 あの日から、カイトとユウの間に生まれてしまったものだと、カイトは常日頃感じていた。


「今日は二人とも外食してから帰るって」


 カイトはもう一度ソファに寝転がり、戸口にいつまでも佇むユウに言った。

 両親の外食。家にユウと二人っきりで、本当だったら嬉しい時間の筈なのに、この三年間二人きりでいるのが辛いと感じないことがなく、でもそれを表に出すカイトではないから、自分の配慮にしくじりないよう注意する。本心をさらけ出すことが今は怖かった。


「あたしは外で食べて来ちゃったけど。カイトは?」

「まだ。じゃあ、適当に何か食ってこようかな」

「うん。そうしたら?」


 ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたようないたたまれない痛みが走る。素っ気ない態度より、そのほっとしたような顔をされることに、いつになくカイトの気持ちはやせ細る気がした。

 ユウも二人きりを恐れている――

 どうしても拭い去ることの出来ない違和感。取り払おうとしても、霧のようにいつの間にかそっと漂い、そこから先の視界を奪い去ってしまう。

 ただユウが欲しいと望んだだけだったのに。

 何がどうねじくれて、こうなってしまったのか、まったく分からなかった。だってまだカイトの気持ちすら打ち明けていなかったのに。


「出かけるわ。戸締まり宜しく」


 なるべく自然体を意識して、本当のような笑顔を見せて、戸口に未だ佇むユウとすれ違った。

 甘い香り。あの頃と何も変わらないのに。それなのに変わってしまったのは二人の関係で。恋に落ちるのが不自然で避けずまれる関係なら、今のこの不自然なぎくしゃくとした双子はどんな存在なのだろう。

 望んだのはこんな状態じゃなかった筈だ。

 玄関の扉を閉めて、大きな溜め息一つ吐き、そっと夜空を見上げた。


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