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LOVE OF BLOOD  作者: hisa
28/56

<28>揺ぎ無い決意

「マユ!」

「残念。一歩遅かったね、ユウはもういないよ」


 今日で三度目の遣り取り。


「どうして、引き止めてくれないんだよ。頼んだじゃん」


 がっくりと項垂れたカイトは、らしくもなく情けない声。

 どうやら、朝からずっと避けられている様だ。という事は、さすがに楽天家のカイトでも自覚した。朝はおいて行かれ、何度教室を訪ねてもユウは既にいない。

 もしかして、昨日の奇行がバレているのかと内心どきりとしたが、それでもどうしてもユウの声が聞きたいし、顔が見たい。


 もう、バレたってバレてなくたって、どっちでもいいんだ。


 少しばかり投げ遣りな気持ちもあるけれど、バレたってバレなくたって気持ちは一つだし、もうサクにだって他の誰かにだってユウは渡したくない。

 昨日自分がとった奇行は、もちろん浅はかだと思う。思うけれど、それでもっと大事な事に気付いてしまったから。やっぱり、このまま見守って、この気持ちを諦めて、今まで通りに過ごすなんてもう出来やしないんだって、こんなにもユウが好きなのに。


「なあ、マユ。ユウがどこにいるか教えてよ」


 恨めしそうな顔付きで、拗ねた様な口調のカイトにマユはちらりと意地悪な視線を寄越す。


「だって、あたしも知らないもん」

「じゃあどうして、引き止めてくんないんだよ」


 責める口調ではない。ただ、不貞腐れているだけなのは付き合いの長いマユには分かり切っていた。

 正直、マユはユウを引き止めようか迷った。ユウが何も言わず、休み時間になると同時に、誰よりも早く席を立ち走って教室を出て行くのを見て、何かあったんだと理解した。

 けれど、サクからあんな話を聞いたばかりだし、逃げるユウに追うカイトを見て、自分が何処まで関わっていいのかが分からなくなってしまったのだ。

 ユウの気持ちもカイトの本音も聞いていない以上、どうする事も出来なくて。

 本当のところが分からないから。

 マユは思案顔で、カイトを見遣る。


「なあ、マユ。俺は絶対にユウを見つけ出す。だから……」


 何かを秘めた厳かな瞳でマユを見詰め、そこでカイトは言葉を句切った。

 マユは黙って先を促す。


「もし、ユウが泣いてマユを頼って来たら、力になってやって」


 真摯な眼差し、怯む事のない声音。そこに揺ぎ無い決意を垣間見る。

 きっと本当はマユにだって譲りたくないであろう、カイトのポジション。


 ああ、やっぱりそうなんだ。


 サクの言葉が脳裏の蘇る。マユはそっと目蓋を閉じて、サクの言葉を裏付ける様にカイトの声を反芻した。

 もう、今までの二人とは一緒にいられなくなるという事。ユウがどんな答えを出そうと、もう今までの様な時間は流れなくなるから、カイトが覚悟を決めた様に、マユも覚悟を決めなければならない。

 正直マユにも、この双子がくっつくのは望ましい事ではないと思う。けれど、それと同じ位別々の二人は想像出来ないし、何だか嫌だ。

 だけど、事態は動き出すのだから、それを受け止めるくらいはきちんとする積もり。

 ユウとカイトがどうあれ、二人はこれまでもこれからもマユにとっては大事な友人だから。


 マユはゆっくりとカイトに向かって顎を引いた。

 その様子にホッとしたように、小さく微笑みカイトも一つ頷き、その場で踵を返し去って行った。


「もう、何だか複雑だなぁ」


 マユは頬に掛かった髪を耳に掛けながら、薄っすらと笑みを浮かべて呟いた。

 追いかけるカイトに逃げるユウ。いつも、じゃれ合っている二人らしくて、こんな状況下でも傍から見ているマユには微笑ましくて。

 そして思う。どんな二人でも一番に理解して、力になれるのは自分だけだから。

 少しだけ、カイトに味方してやるかと、マユは教室の入り口に向かって、


「カイトなら、食堂に行ったけど?」


 そこにぺこりとお辞儀を返して、ふわふわの髪を靡かせた一年生。


「……あたしからの、クリスマスプレゼントだからね」


 立ち去った一年生――マリから視線を窓の外にやり、きらきらと煌めく雪に向かってマユは一人呟いた。

 この煌めく雪粒の中から大事な大事な宝物を見つけられますように。

 それがどんな形で、どんな色や香りをしているのかは分からないけれど、今日はクリスマスイブだから。どんな形や、結果であっても。

 親愛なる双子へ――幸せが訪れますように。


 

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