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LOVE OF BLOOD  作者: hisa
25/56

<25>嫉妬と焦燥

 ひどく苛立った。正直ここまで苛立ったり、ダメージが大きいとは思ってもみなかったから。

 人から楽天家だと言われる事はよくある事で、少なからずその自覚はあった。けれど、自分で思っていた以上に軽く考えていたんだと気付いた時には既に遅かった。

 カイトは苛立ちを抑え切れず、足元に積もった雪を蹴り上げた。柔らかい粉雪は遠くまで飛ぶ事無く、きらきらと飛散する。

 自分の心情とあまりにそぐわない雪の美しさにますます苛立つ。でも、ただの八つ当たりだとも理解していて。

 ユウがマリと連れ立って目の前から姿を消して、直ぐに胸騒ぎを覚えて後を追った。

 柔らかい雪を蹴る様に走って校舎に向かったのに、その何処にも二人の姿を見付けられず、慌てて反対の東校舎へ進路変更。まさか、三年生の棟にいるとは思わずユウ達を発見するのに手間取ってしまった。

 やっと見付けたと思ったのに、なぜか走り去ったユウに呆気に取られたけれど、後ろ姿から逃げられた様にも感じられ、急に覚えた焦燥感。

 近寄って来たマリが何かを言っていたようでもあったけど、カイトは全くそれを聞いてはいなかった。

 マリが何かをユウに言った事だけは間違えないだろう。と、察してカイトはマリを無視してユウの後を追った。けれど、それが間違った選択だったのかもしれないと、カイトはざらりとした思いを抱く。

 出来れば見たくなかったから。こんなにも自分が嫉妬深いと思っていなかったから、こんなにも辛いという事をはじめて思い知った。

 

 ユウとサクのキスシーン。


 思い出して、また、雪を蹴った。

 こんなに苦しいとは思ってもみなかった。心が引き裂かれそうな程。人が楽天家と評するだけあって、こういう事態は心の片隅にあった筈なのに、それを捉えて真剣に考えた事はなかったから。そんな自分にも腹が立つ。


「くそ……誰の許可得てキスしてんだよ、あのヤロー……」


 俺の許可を取れ、と心中毒づきながらカイトは通学鞄を乱暴に雪の上に投げつける。

 ポスっと、軽い音を立てて鞄は景色の一部となった。

 具体的に目撃してしまうと、それはリアルなだけに心にくるものがあって。


「俺だって我慢してたのに……」


 どれだけ耐えたと思っているのか。双子に産まれついてしまっただけに、想いを易々伝える事も出来ずに。一つの屋根の下で、それがどれだけ忍耐を強いられる事か。

 悔しさに、唇を噛み締めた。





「ただいま」


 珍しく無愛想な我が子に母カナコはきょとんとした顔を向ける。「おかえり」と、様子を訝しみながらリビングの扉を開けた。

 後に続いて部屋の中に入ったカイトは、中の暖かさに少し落ち着き、悴んだ手を擦った。そして、徐に天井を仰ぎ見て、


「ユウは?」


 その声は少し焦っているようで、ますますカナコは小首を傾げる。また、喧嘩でもしたのかしら、なんてのほほんと思いながら、カイトがソファの上に放り投げたコートをハンガーに掛けた。


「帰って来てすぐに自分の部屋に戻ったわよ?」

「……そ」


 天井を見上げたまま静まり返った我が子を怪訝に思いつつも、カナコは薬缶に水を満たし、火をかけてお茶の準備を始めた。

 暫し流れる沈黙。

 暫らくすると、食器の音を立てながらカナコはカイトの前にトレイに載ったティーカップを二つ運んで来て、


「ほら、これ持って早く謝って来ちゃいなさい」


 にっこり笑う。

 喧嘩したと勘違いされたか、と天然の母に苦い笑みを返し、カイトは素直にトレイを受け取って。そして、ティーカップに視線を落す。

 そこにはいつもユウが飲んでいる甘い香りのする紅茶。お気に入りのティーカップ。ユウを思い出させる香りに、少しどぎまぎしながらカイトはリビングを出た。

 二階への階段を上りながら、カイトはふと足を止め、物思いに耽る。先程の局面がフラッシュバックして。


「やべ……普通に出来るのか?」


 自問したりして。

 先程より落ち着いて少しは冷静になったと思ったけれど、ユウの顔を見てもいつも通りに振舞えるのか、あまり自信が持てなくてカイトは重い吐息。

 止まってしまった足を無理矢理運んで、まずは自分の部屋へ戻って、後少しだけ落ち着く為にも制服から着替えた。

 だけど実際落ち着こうとすればする程。サクにユウを奪われてしまうかもしれない焦りと、苛立ちに逆に落ち着かなくなる。

 ここまで耐えて来たのに、どうして今になって我慢が出来なくなって来るのか。やっぱりあんな所を見てしまったのが原因なんだろうなと、顔を顰めた。

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