<14>こんな結果
ああ、失敗した。
まず理解したのは自分の選択が間違っていた事。正直にばらすと、そんなに深く考えていなかったという事と、女の恐ろしさを侮っていたという事実。
カイトは紙トレーに乗せた三人分のジュースを持ったまま唖然と立ち尽くしていた。冷静に事態を把握しようと努めるけれど、事態の険悪さに元から楽天家のカイトは苦虫を噛み潰したようである。だって、こんな事態。
正直、面倒くさい。
いやいや、ちょっとばかり面倒くさいけれど、大事な片割れが困っているのだからやっぱりそれは、救い出さなければならないのが道理というものであって。
そもそも原因は自分にあるのだから。
でも、ユウが困っている様にはカイトには見えなくもないのだが、原因を作ったのにそれを知らん振りするわけにはいかないのである。
カイトは人で溢れ返る映画館のフロアを縫うように歩きながら、ユウ達の近くまで行き、足を止めた。
周りの空気の色までも変えて仕舞ったのではないかというオーラ。余りの険悪なムードに入り込むのをついついしり込みしてしまう。
こんな風になるなんて、まったく予想だにしていなかった。
ただ単に、映画ならユウと見たいと思っただけなのに。
渡り廊下でユウを見掛けたあの時、不覚にもしてしまった約束。流石に反故する訳にも行かず、後日しっかりと映画の約束をマリにさせられてしまった。大人しく、マリと二人で来ていればこんな事態にはならなかったというのに、どうしてもカイトはユウを誘いたかった。
理由なんて見当たらないけれど、どうしてもユウと一緒が良かったのだ。むしろ、マリが居なくても。理由なんて、特にない。ユウと一緒が良かっただけ。
それでも、ユウに嫌な思いをさせてしまったのだから。いつでも笑ってて欲しいと思っているのに、苦痛の顔をさせてしまったのだから、自分がなんとかしなければ。
「お待たせ」
何事もなかった様に、けれども威圧感を込めて。
カイトの声に弾かれたように両者が声の主を見上げた。ここで第二ラウンド終了である。どうやら勝敗はつかなかった様で、ユウは綺麗な顔をふて腐れた様に歪め、これまたマリは不自然な位に明るい笑顔をカイトに見せる。
女って恐ろしい――
改めてカイトの背筋を冷たい何かが伝う。あれだけ激しい口論をしていたのに、今は底抜けに明るい笑顔を瞬時に引き出せるなんて、女は女優と言うけれどあれは本当だと思う。カイトは平然を装いながらもマリの本性をしっかり確認した。
「それじゃ、そろそろ行こうか。もう中入れるみたいだし。ユウ、ホットの紅茶で良かった? シロップいっぱい入れてきちゃったけど」
にっこり笑って、カイトは座ってるユウの手を引いて立ち上がらせる。繋いだ手が冷たくて、カイトの中をちくりと痛いものが走る。手が冷たくなるほど嫌な思いをしたのかもしれないと思うと、何故だかその手を引き寄せて抱きしめたい衝動に駆られた。慌ててそんな邪心を振り払う。ユウは双子の姉だし、とても大事な存在だから、今の感情は気のせいだ。
自分自身に言い聞かせるのは、大分前からこんな気のせいや気の迷いや勘違いが多い様な気もするから。
だって本当の気持ちを認めてしまえば、ユウの全てが欲しくなるに決まっているから。幸せを取り上げて、茨の棘だらけの道を一緒に歩かせるなんて、そんな酷な事出来やしない。いつでも笑ってて欲しいと望んだのはカイト自身の希だから。
「マリは、ウーロン茶でいいんだよね? 寒いからホットにしたけど」
「ありがとうございます、嬉しい!」
ユウを背中に隠す様な立ち位置で、カイトはマリの方へ向き直った。マリはあんな裏があるとは思えない華やかな笑顔で小さく頭を下げた。そんなマリに向けて、カイトも至上の笑みを返す。もちろんその瞳の奥はほんの少しの暖かさも篭っていない、冷たい瞳。
「それと、あんまり家の苛めないでくれると嬉しいんだけどな?」
ユウには聞こえないように、カイトはこっそりマリに釘を刺す。冷たい瞳に冷たい声、笑っているのは顔だけでそれは十分に効果を発揮する筈だから。
自分が原因を作ったのは重々承知。それでも、こっそりお仕置きするくらいなら神様もきっと許してくれる筈。だってそれは、大事な大事なユウの為だから――
いつも読んでくれてる皆様、そして初めて読んでくれた皆様。お付き合い頂きありがとうございます!
更新ペースが大分遅くなりがちですが(汗)出来るだけ早くUP出来る様努力しますので、気長にお付き合い頂けたら嬉しい限りです!
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