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LOVE OF BLOOD  作者: hisa
10/56

<10>それぞれの心曲

 胸を締め付けられる。重苦しい気持ちで一杯で一人にはなりたくないのに、でも一人で居たくて――ユウは西校舎の屋上にいた。

 寒風吹き荒むこの時期の屋上は、お気に入りの渡り廊下より断然寒くて思わず身震いする。吐いた白い息が、上空に向かう前に風に攫われて消えていく。寒くて凍えそうなのは身体だけではなかった。

 サクが言った言葉がユウの頭の中をぐるぐると思考を掻き乱し、思うように感情が付いていかない。カイトの声が聞きたくて聞きたくて仕方がない。小刻みに震える身体を自分の両腕で抱きしめ、ユウはその場にしゃがみ込んだ。

 行き場の見付けられない感情が、静かに溢れ出し、ユウの白い頬を音もなく伝った。


 依存――

 ユウは依存する事の心地よさを知っている。

 お互いにそれで心の平穏が得られるのならば、それでもいいと今まで何度も思ってきた。だけど、ユウの中の何かが否定する。このままじゃ、危険。先程サクに感じた危険信号よりも危険で、それでいて甘美な罠。それに嵌まってしまったら、一貫のお終い。

 判ってはいるのに、サクに言われなくたって自分が一番おかしいって気が付いてる。こんな感情は抱いてはいけないのだ。依存以上の感情になってしまったら、その感情の名前は何と表わすのだろうか。


 でも、どうすればいいのか判らなくて。ユウの心の面積を半分以上埋める片割れの、所有面積の消し方をユウは見付けられないでいる。カイトの顔、声、視線、なにもかも1ミリの狂いもなく思い出せるし、目を瞑っていたって存在を感じる事が出来るのに。

 こんなに心地良くって、暖かい存在。

 カイトしかいないのに。


「ユウ? こんな寒いとこにいたら風邪引くよ? お家に帰ろう」


 背後に感じた暖かさ、やっぱりカイトだ。どうしてこんなに卑怯なタイミングで現れるのだろう。

 双子の以心伝心の成せる技なのだろうかと、ユウは伏せた視線を上げもせずに思う。しゃがみ込んだままカイトに背を向け、一向に立ち上がろうとはしなかった。

 こんな顔は見られたくないのに。

 でもカイトに会いたい、声が聞きたいと望んだのは自分で。

 きっと探しに来てくれたのに違いなくて、凄く嬉しいのに、でもそれを素直に喜べない自分がいるのも否定出来ないでいる。

 矛盾する自分の気持ちが解らない。


「なぁユウ。お前最近大丈夫か? なんか心配事とか悩みとかあったりする? 最近不安定じゃん」


 ふわりと綿雲の様に心が穏やかになる。

 自分の些細な感情だってカイトは見逃さない。誰よりもユウの事を理解して、一番に心配してくれるのだから。こんな安定剤を簡単に手放せる訳がない。


「ユウ?」


 頑なに無反応。これはどういった反応なのだろう。

 カイトは一瞬だけ逡巡したけど、自分だったらきっと、こう。

 ユウの横に同じ様にしゃがみ込み、そっと髪を撫でる。小さい子供にする様に。いい子いい子。


「……子供扱いしないでよね。仮にもあたしの方がお姉ちゃんなんだから」

「そうだった。ユウが泣き虫だから忘れてた」

「ひどいっ!」

「あ、やっと顔上げた!」


 またやられた。

 悔しい気持ち半分、嬉しい気持ち半分、その隙間に戸惑い少し。ユウは泣き笑いの様な顔をして、カイトの視線を誤魔化した。

 そっと、手が伸びる。

 冷たくなった頬に、冷たくなった涙の後をなぞる様に暖かい掌が拭っていく。どうして、この手を手離さなきゃならないのだろう?

 視線をカイトの顔から逸らせず、ユウはぼんやりとそんな事を思う。

 いつからこんなにカイトの暖かさの虜になってしまったのかな。

 少しずつ落ち着いて来た頭で、帰ったら取り合えず暖かい紅茶を飲もうと思った。


「でさ、一体どうしたの?」


 手を止めたカイトが問う。真剣すぎる程の眼差しに、一瞬呼吸が止まりそうだった。その瞳に吸い込まれそうで、何もかも話してしまいたい衝動に駆られる。慌てて、ユウは頭を横にぶんぶんと大きく振った。カイトは拒否の反応に小さく溜め息を吐き、


「分かった。何も聞かない。でも、辛くなったら絶対言えよ。約束だからな!」


 無理やり指切りげんまん。

 思わず噴出したユウに、やっとカイトは安堵の息を吐いた。お願いだから、辛そうな顔をしないで――

 いつでも安心出来る場所でユウには笑ってて欲しいのだから。

 それはカイトの勝手なわがままなのだけれど。それでも少しは叶えられる様努力する事は、諦める事より簡単だから。大事な大事な自分の分身為。


 暖かい心地の中で、甘い甘い、安定剤をどうぞ?



 

 

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