表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

エルフの弓

2026/3/20

初投稿です。お手柔らかに。

『エルフの弓』

   平原の夜は、森よりも騒がしい。

 人間族の傭兵団〈灰狼の牙〉は、エルフの森を望む丘に陣を張っていた。依頼は単純だ――森の内部の調査。

 新たな土地と資源獲得のためエルフの森を調べる。

 近隣の村の人間や古くからの街の人も反対だったが、都の人間の思惑は関係なかった。

 都の人間は領土の拡大を目指す。

 そのためにはまず、森の力を測ること。エルフの力を量ること。


   「景気づけだ!」

 団長の号令で、酒樽が開かれた。焚き火が弾け、肉が焼ける匂いが夜に広がる。

 団員たちは杯をぶつけ、肩を組み、荒い声で歌った。

 故郷の歌。戦場の歌。勝利を祈る歌。

 都の中でも随一の腕を誇る男、ロルフが、杯を傾けながら言った。

 「明日はようやく強風が吹く。エルフ得意の弓も風が強けりゃ意味ただの棒だ」

 団長は軽くうなずく。

 「明日はロルフの合図でギリギリまで森に接近する。その後盾を構えて森に入る。」

 森周辺の領土拡大のため長期の計画になる。調査の段階で失敗はできない。入念な計画を確認し夜は更ける。


   翌日。

 朝から強い風が木々を揺らす。

 平原を渡る横風が、草を波のように揺らしている。

 傭兵団は大盾を前面に並べ、亀の甲羅のように身を固めた。

 一歩。

 また一歩。

 森は沈黙している。

 鳥の声すらない。

 「ここだ」

 ロルフが低く言った。

 事前の測距で、エルフの矢が届くと噂された距離より、わずかに手前。盾で壁を組み、その中で小休止を取る。

 わずかな酒の残りをあおり、誰かが乾いた笑いをこぼした、その時だった。

 ――笛の音。

 遠い。だが、はっきりと聞こえる。

 一小節、二小節、

 三小節目で、低く深い笛の音が重なる。

 そしてさらに、弦楽器の音が主旋律を奏でる。

 団員全員が、顔を上げた。

 「……あれは」

 言わなくても全員わかった。それは、昨夜彼らが歌っていた旋律だった。

 荒く、調子外れに、酔いながら歌ったあの曲。

 だが今、森から流れてくるそれは、澄み渡る音で、正確に、優雅に、重層的に編まれている。

 団員たちの背筋を冷たいものが走る。

 「あいつら聴いてやがったんだ……」

 森からの挑発

 風は確かに強い。

 だが音は乱れない。

 完璧に、届いている。

 やがて音楽が止む。

 静寂。

 次の瞬間――

 ヒュン、と空気が裂けた。

 トトト

 トンットンットン

 トトト

 トンットンットン

 トトト

 トンットンットン

 トトトットンットンットン

 盾に当たる衝撃はない。

 中央のテーブルに、心地よいほど正確に、矢が突き刺さった。

 全員が、凍りついていた。

 風は強い。

 距離はある。

 それでも、矢は一本も外れていない。

 ロルフが、震える手で近づく。

 矢羽根の揃い方、角度、深さ。

 まるで測量の印のように整然としている。


 「あと、十歩」

  正確に撃ち込まれた矢が文字をかたどっていた。

 全員の喉が鳴った。

 あと、十歩。 この矢が何を意図しているかは背筋から感じる。


 「撤退だ」

 団長は、即断した。

  声はかすれていた。

 彼は矢の刺さったテーブルをそのまま抱え後にした。



 森からは、また3つの音の演奏が聞こえる。

 脅しているのか、遊んでいるのか。

 数日後、団長は都に報告した。

 「エルフは、弓が上手いどころではない。」

 団長の表情と、矢の刺さったテーブルがその場の人間を黙らせる。

  横にいたロルフも今回の距離と精度、そして予想される人数に関する情報を話す。

 報告を聞いている都の人間は二人の表情で悟ってしまった。

  報告書の書記はロルフの冗談まで最後まで記す。

  彼らは音楽も上手い。だがもう二度と聴きたくない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ