表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

魔女ラ・ガンティエール

■ラ・ガンティエール

イタリア系フランス人。


この世で最も年経た魔女。


ラ・ガンティエールは昔、犬を飼っていた。

彼女は自分の相棒である犬に言った。

「いいかい?

思想を持ってはいけないよ。

思想ってやつは、捕らわれると、

その為に、

自ら己を飲み込む大波に向かっていく

[生きる事]とは矛盾した生き物になっちまうんだ」

しかし、やがて犬は

社会主義の思想を持ち、

スペイン内戦の義勇軍に参加する為に

スペインに渡ってしまった。

そして、それっきり帰ってくる事はなかった。

「あれ程、思想を持つなと言ったのに・・」

彼女はとても残念がった。


やがて時が経ち、彼女に友達が出来た。

その友に彼女は言った。

「いいかい?

思想を持ってはいけないよ。

思想ってやつは、持っちまうと、

その為に大切な人を裏切って、駆け出して、

長生きがとにかく出来なくなるから」

しかし友は

[愛を貫きたい]

という思想を持ってしまい、

嵐の夜に溺れた魚を助ける為に

川に飛び込んで、

二度と浮かんでくる事はなかった。

「あれ程、思想を持つなと言ったのに・・」

彼女はとても悲しんだ。


やがて、彼女には恋人が出来た。

彼女は自分の愛する恋人に言った。

「いいかい?

思想を持たないでくれよ。

思想ってやつは、残酷だ。

自分の手に余る

沢山の荷物を人に抱えさせるものだから、

みんな生きていけなくなってしまうんだ」

しかし、恋人は

[正しい道を生きたい]

という思想を持ってしまい、

ある日、暴漢に襲われている人を助けようとして、

刺されて死んでしまった。

「あれ程、思想を持つなと言ったのに・・」

彼女は泣き崩れた。


その後も、彼女には

沢山の大切な人間が出来たが、

皆、何処かで[思想]を見つけ、

彼女を置いて、いなくなってしまった。


魔女達の集まる集会では、

誰よりも長い年月を生きた彼女を

他の魔女達は口々に讃えた。

「素晴らしい!!

きっと永遠に生きるに違いないよ。

あやかりたいものだ。」

「あのエル・マゴットや、ラ・カラですら、

寿命という点においては彼女に及ばない!!」

しかし、彼女は言った。

「私は長生きなどしていない。

[思想を持たない]私は、

そもそも生きていないのだ。

だから死ぬ事もなく、

歳月を積み重ねる事もない。

そこにあるのは無だ!!

枯れた木の身体が、また次の木になる様に、

ただ、存在をしていただけだ。

なぜなら、

人が[生きている]という事は

[思想を持つ]という事だからだよ。

[思想を持たない]私を、

誰か殺す事が出来る者はいないのかい?」


しかし魔女達は、

彼女の言っている事を理解しなかったし、

口々にただ彼女を讃えた。

「あやかりたいものだ!!」


そこに、たまたま通りがかった

聖ロクスが、彼女に言った。

「[思想を持たぬのなら死なない]という事が

お前の魔法ならば、

いつかはお前も死ぬだろう。婦人よ。

なぜならお前は

[思想を持たぬという思想]を持っているからだ」

それを聞いて、彼女はようやく救われた。

そして言った。

「なるほど。

思想を持つ事が[生きる]事で、

生きるが故に人は死ぬ。

だが、それでもどんな邪悪さすら、

どんな思想を持ち、右や左に行った者すら、

結局は神の愛と哀れみにすがるのだなぁ・・」


どんな異なる思想の先にも、

愛に飢えた心がある、というお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ