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魔女ウオイ・デ・ジャブチ(赤足亀)

■ウオイ・デ・ジャブチ

ブラジル北東部ピアウイ州出身。


ウオイにはなりたいものが何も無かった。

信仰心も無く、ミサでも与えられたパンを取りこぼしてしまう彼女を

人々は、人生の消えゆく松明の灯りの様だと言い、

虚しい食卓の皿の上のカメ「ジャブチ」の様だと言い、

彼女はいつの間にか

カメのウオイ(ウオイ・デ・ジャブチ)と呼ばれる様になった。


彼女は勉強嫌いだったので、勉強も全くする事はなかった。

数字を並べた所で、彼女にとっては何の意味もなさなかったし、

カステロ・ブランコが棺桶に入っても、

彼女には全く関係のない事だった。

そんな事で、彼女の食卓の上の

死んだカメが動き出す事はなかったのだ。


そもそもウオイは賢かった為に、勉強などしなくても

この世の重要なある事柄がわかっていた。

「人間は愚かであり、人生は愚かである」という事が。


ウオイにとっては、どんなに学問を学び、

多くの勲章を胸に抱いてもその人は愚かだし、

どんなに軍隊の中で辛い訓練に耐え、体を鍛え、

傷ついた黒い闘犬の様な鋭い精神を持って、軍曹になっても、

その者は愚か者だった。

また、白牙魚(カショーロ)の様な高潔な心を持ち、

その身を犠牲にして多くの人民の為に戦った革命家も、

やはり彼女にとっては愚か者だったし、

自分の魂をボロ(ボルシーコ)にぶら下げ、

万人に愛される三文政治家も

当然、彼女にしてみれば愚かだった。


彼女にとって、全ての人間はとにかく愚かだったので、

ある日、彼女の元を訪れたスルル貝を漁どる漁師が訪ねた。

「キリストは偉大な人だよ。彼も愚かかね?」

すると彼女は言った。

「勿論。

とんでもなく愚かな奴じゃないか。

人間なんかに救う価値があると思うなんて!!」

そこで漁師は言った。

「では、大悪党はどうだい?」

彼女は言った。

「勿論、愚か者だよ。

悪党だけでなく、大までつけちまうんだからさ」

漁師は言った。

「偉大な者に誰かなれないのかい?」

彼女はマリア・イザベルという名をつけた

混ぜ飯を食べながら答えた。

「なれるとも!!

偉大な愚か者になるだけの事さ」

漁師は驚いた。

「それではみんな愚か者という事だ。

お前さんも愚かだし、俺だって愚かな漁師さ。

一体じゃあ、俺達は

どうやって生きればいいっていうんだい?」

すると彼女は笑った。

「愚かに生きればいいじゃないか!!

愚かに楽しく生きればいい。

楽しくないなら、愚かに悲しく生きればいいんだ」

「するってぇと、じゃあ

貞節とか、高潔ってえのは、何の為に守るんだね?

俺は守らねばならんと思うね。

キリスト者ならばさ」


そう言って、

海に出ていく漁師を見送りながら彼女はつぶやいた。

「愚かである自分を否定する者は、やはり愚かなので、

結局、人間は皆、愚かだ」


彼女は蝋燭の炎を消した。

明日、また生きる為に。

皿の上の死んだカメは起きる事はないし、

キリストの祝福を受ける事もないかもしれないが、

人々はそのカメすら腹に収めて生きるのだ。

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