専属侍女は知っていた
ラストは病弱なお嬢様の侍女視点です。
私は転生者。
今は子爵家の病弱なお嬢様に使えている。
この世界は前世で読んだ小説によく似ていた。
小説ではお嬢様は無関心な婚約者に我慢を強いられ、結婚後すぐに亡くなってしまう。
骸骨のような遺体を目にした実家の遺族は烈火のごとく怒りに狂い、特に苛烈な妹は真相を解き明かし伯爵家に復讐する。
そう小説のヒロインは妹様。
物語は面白かったけれど、目の前の女の子が将来不審死をとげるとか殺人犯になるのは防ぎたい。
私に何ができるか分からないが、せっかく前世を思い出したのだ。運命を変えられるかもしれない。
とりあえずお嬢様には我慢をさせないように頑張る。
(我慢ばっかりしていたから、あんな男にも耐えちゃったのよ)
貴族の女性は美しさを重視する。お嬢様もプルプル震えながらワンピース姿で耐えていた。
「寒かったらもっと服を着ましょう」
モコモコのセーターを編んで差し上げた時は本当に喜んで、私を専属侍女にしてくれる。
前世の知識で基本的な栄養学や健康法は知っていた。お嬢様も合理的な世話を受けて寝こむ回数が減る。
「食べたい物があったら教えてください」
本当は以心伝心が理想なんだけど、お嬢様には自分の希望を言葉にするようにうながす。
欲求は言葉にして外に出していかないと、本当に必要な時に言えなくなってしまうのだ。
せめて助けて欲しい時に呼ばれないと。
ただ頭が痛くて泣いている時は困った。
この世界にある痛み止めはアヘンとモルヒネ!
劇薬じゃん。ありえねえ。
ぬれたタオルで冷やしても痛みは消えない。
私は前世の知識をさらって、何とか柳の樹皮にたどりついた。
乾燥させた樹皮でお茶を煎れて、やっとお嬢様は泣き止んだ。
旦那様に頼みこんで、製薬会社に柳樹皮の研究をねじこんでもらう。
(はやくアスピリン完成しろや)
その会社に漢方薬的な薬を輸入してもらった。
「お粥が欲しいわ」
「今日はお庭を歩きたいの」
「まだちょっと寒いわ。ショールを持って来てちょうだい」
少しづつ意思を伝えられるようになったお嬢様が、とうとう婚約した。
毎週ゲッソリしながら外出していたのに、相手はたった三回目から交流をすっぽかしやがった。
(思っていたよりクズだな)
お嬢様に謝罪の手紙を見せてもらったが、形式が整えられているだけで誠意は読み取れない。
「この方、お嬢様にはふさわしくありません」
私ははっきり言葉にした。
お嬢様いい子なんだよ。頼むから死なないで欲しい。
「あの方との婚約は嫌ですわ」
開いた扉の先の食堂で、お嬢様が旦那様にハッキリ宣言するのを聞きとめた時、心が歓声を上げた。
やったあ! お嬢様の婚約がなくなったぜ!
嬉しさのあまり通りかかった執事見習いをハグしてしまう。
「あ、ごめん」
とりあえず謝って仕事に戻ろう。
これで物語の進行は大きく変わった。
お嬢様の婚約は解消される。
そしてその影響か、ついでに元婚約者の従妹が屋敷から追い出された。
(この世界線ではまだ洗脳しきっていなかったのか)
あの女、物語では伯爵家の嫡男を洗脳してお嬢様を蔑ろにさせた。
お嬢様の死後は伯爵夫人の後釜にまんまと納まる。
こっちの持参金も返さずに使いこんで。
そしてこいつこそお嬢様に毒を盛り死なせた犯人だった。
もう妹様の復讐劇もなくなるから、殺されなくなって良かったね。
一発くらい殴ってやりたかったけれど、身分差にあきらめたわ。
ちょっと残念なのは、愛する彼が憎い男の弟だと知って苦悩に悶える妹様の姿が見られないことだけど‥
伯爵家次男は分かっていた!
運命の相手が誰かってことに♡
伯爵父子が尋ねて来た時、私もお嬢様の後ろにひかえていた。彼が恋に落ちる瞬間をばっちし目撃できたぜ!
嬉しさが止まらなくて誰かと感動を共有したい! 仕事の後で適当に一人捕まえたから物陰で話をしようとした。
しかしなぜか向こうから体をギュっとされる。
「二回目ってことは俺に気があるってことだよな?」
ええっと、この間ハグしたのと同じ人じゃん!
ヤバい、頭上で囁かれたら、恋愛に免疫ない私は真っ赤になっちゃう‥
何でそうなったの!
「違うのか?」
相手が力をゆるめたから何とか腕から逃げ出すけど、もう心臓はバクバクですわ。
よく見たらこいつイケメンじゃん。うわぁ恥ずかしいったらありゃしない。
な、何て答えたらいいのよ‥⁉
ご愛読ありがとうございました♪(*^▽^*)
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10/29 週間ランキングで一位! やっふー♪
柳樹皮のお茶の薬効は適当に書いています。
昔はモルヒネですら「アヘンチンキよりずっと安全」と思われていたようで、徳川慶喜も処方されていました。怖い。
鎮痛剤は副作用や依存性がまだあるので、使い過ぎはダメですよ☆




