弟の話
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今日は元婚約者の弟目線です。
我が家は伝統と格式のある伯爵家だ。
誇りには思っているが、格式を維持するためには費用がかかる。
昔は裕福だったらしいが、現代は所得税に相続税で資産は減る一方。
貴族としての交流は義務だから、夜会に晩餐会にお茶会は必須。
父上も母上も見栄のためか出費を減らそうともしない。
叔父夫婦から身体が弱い従妹を頼まれた時も断らなかった。
治療費も全額負担してやったらしい。
ある意味バカだ。
この従妹、昔はしょっちゅう医者を呼びつけて、両親と兄を心配させてばかりいた。
まだ幼かった僕は嫉妬しては意地悪や無視をくり返していた。
それはまあ悪かったと思っているよ。
そんな彼女も数年前には医者にかかる頻度が減っていた。治って来たのだろう。
両親の心は少しずつ僕に戻って来た。
僕が学校で高得点を取るとほめてくれるようになったんだ。
「わたくしは学校に行けませんのに、ずるいわ」
あいつは何でも人のせいにする。
「宿題をサボってばっかりで家庭教師に怒られたのは誰だよ」
僕が言い返すと、すぐ兄に泣きつく。
兄だけは従妹にべったりだから。
従妹は十三の時に別館へ移された。
年頃の男女が一緒に暮らすのは世間体が悪い、と言うのが表向きの理由。
本音は色気づいて来た彼女がドレスや宝飾品をねだる回数が増え、両親が音を上げたからだろう。
僕にとっては晩餐以外で顔を合わせなくなったから幸いだった。
僕はどうせこの家を出るけど、何も考えていない兄の代はどうなることやら。
あれにずっと寄生されるのだろうか?
そんな兄が婚約を結んだ。
お相手は子爵家の令嬢。体が弱いそうで、看病に慣れている相手を探していた。
我が家に多額の援助をしてくれるそうだ。願ってもない相手。
両親も僕も本当に祝福していた。
まさか兄が従妹を優先して、婚約者との交流をサボったなんて。
そのせいで婚約は解消されてしまう。そりゃそうだろう。
まさか兄がここまで愚かだとは思わなかった。
気楽に構えていた僕に、家督が回って来る。
さすがの両親も危機感を持ったようだ。
従妹も追い出して別館を売りに出す。
あれが残した宝石はそれなりの値で売れた。
バカな女。安物で我慢していれば手元に残してやったのに。
そして僕の跡取りとしての初仕事は、兄の尻拭い。
父と共に子爵家へ謝罪に向かう。
そこで僕は女神と出会った。
兄の婚約が決まった時、一度だけ会った彼女。
その時もきれいな子だなとは思っていたけど。
しかし朗らかな表情は彼女の一面に過ぎなかった。
すさまじい力をこめギラリと光る瞳に、僕は視線を外せない。
怒りに身を任せる彼女は、まさに神話に登場する復讐の女神!
(何だこの感情は)
荒れ狂う心が恋だと気づいたのは三日が立った後だった。
「お前もとうとう婚約が決まったのかぁ」
学院で悪友に囲まれる。
「ふ、僕が本気を出せばこんなものさ。でもな~ 結婚まであと二年もあるんだぜ」
「そりゃ相手が卒業までは無理だろう」
「お前がそこまで入れこむなんて、どんな美人だ? 紹介しろよ」
「ははは、会わせるわけないだろう?」
「彼女に姉妹はいたりしない?」
「おい、下手な奴紹介して僕の印象が悪くなったらどうするんだ」
「下手って誰が!」
いつものように軽口から取っ組み合いになる。
「うらやましいよ」
騒ぎが収まった後、一人がつぶやいた。
こいつは家が貧乏だから結婚とか婚約は考えられないって話していた。
「オレは卒業したらすぐ働いて実家を支えないと」
使用人が少ないから、昔から妹と弟の世話にあけくれた苦労人だった。
僕の友人の中では珍しく真面目で穏やか。
地味貧乏じゃなければもっとモテてもおかしくないのに。
(ん? 下手な奴じゃないな)
「お前さ、地味で野暮ったい女子ってどう思う? 身体も弱いんだけどさ」
好みくらいは把握しておくか、一応な。




