病弱でも生きていけるのは
「元の婚約者様、廃嫡されたようですよ」
侍女から教えてもらいました。
まあお家を傾けさせましたからね~ 仕方がないのでしょう。
数日後、元婚約者の親御さんと弟さんが我が家に謝罪の訪問です。
家族そろってお出迎えですよ。
「愚息が申し訳ありませんでした。伯爵家は次男に継がせますので、ぜひ取引の復活をお願いしたく参上いたしました」
私はそこには関与していないのよね。お父様が怒ってしまって。
「ふざけないでいただきたいわ! そもそも今回の件は、そちらが我が家を成り上がりと軽視していたことが問題ですよね」
うわ、お父様だけじゃなくて妹まで激おこですわ。
この子恐いのよ。まだ16ですが何人もの男性を泣かせていますの、口喧嘩で。
「今回は解消といたしましたが、ハッキリ言って慰謝料を要求したいくらいですわ。この家と商会を継ぐ者としてなめられてはたまりません!」
あらあら、伯爵もご子息も目を丸くされていますわね。
「では、慰謝料をはらいますので、取引の方を‥」
「それよりは上位貴族の紹介をお願いするわ」
話は妹の思いのまま。もうお父様も交渉事はほとんど任せているのよね。
伯爵家の次男もこの子から目が離せないみたい。
話し合いの結果取引は復活しましたが、それより驚いたのが伯爵家と妹の縁談。
弟さんは我が家の妹に恋したみたいなの。
妹も初めは断っていたけど、アプローチがすさまじくて了承したんですって。
二年後には結婚が決まったわ。
自分のことじゃないのにウキウキするわね。
幸運なことに、私は家に残れることが決まったの。
妹が伯爵家に嫁入りするから、今のお屋敷は私に譲ってくれるんですって。
「狭い家は嫌だったの」
あの子にとっては渡りに船だったみたい。
まあ伯爵家のお屋敷は古くて不便とこぼしていたけど。
きっとその内、大々的にリフォームするのでしょうね。
伯爵家と我が家の関係だけど、妹が実権を握る条件で事業は両家の共同になったわ。
元婚約者は文官試験を受けて落ちたとか。付け焼刃の知識では無理だったみたい。
今はうちが経営する店で働き出したんですって。
役員じゃなくって新人の職員として。
もう関係のない話ですが。あ、一応は義理の家族ね。
「お嬢様の縁談がまとまるのはいつのことやら」
侍女がため息をついています。
別に私は独り身でも困らないのに。
一番困るのは専属侍女が結婚して家庭に入ることよ。
最近この子、執事見習いといい仲らしいのよね。
恐怖に体が震えるわ。
「大丈夫ですよ。私結婚する予定ありませんから」
湯気の立つ薬湯を渡してくれながら、侍女は私をはげましてくれます。
「将来に備えて後輩の育成も行っております」
本当に気が利くこと。
「いつもありがとう。あなたがいるから私は穏やかに暮らせるのね」
あら、ほっぺが真っ赤よ。かわいいんだから。
「だから今日はお薬飲まなくてもいいかしら」
「ダメです」
最近、東方から取り寄せたお薬ですが効き目はあるのです。しかし‥ とってもマズいの。
たまに飲むくらいなら構いませんが、毎日はつらいのよね。
しょうがないわ飲むとしますか。
彼女、痛み止めは頑として禁止なのに、意味不明な名前の薬は無理にも飲ませてくるのよ。
身体がポカポカするから構いませんが。
「飲み終わりましたらココアを用意してございます」
わーい、あったかいココア大好き!
一口飲むとショウガの香りに気がつきます。
ふう、身体が温まるわ。
とりあえず一段落です。
お金持ちで世話してくれる使用人がいるのなら、結婚は必須じゃないですよね。
まあ現実の筆者は収入も使用人も‥




